確かに俺はイタリアに行ってからずっと家庭教師で、学校の授業は受けてなかったけど。

「ヴィレッタ先生、もうやめましょう」
「そうしたいのは山々だが、単位は無しで留年だぞ」
「別な種目にしましょうよ!ランニングとかバスケとかテニスとか!どれも得意じゃないけど!!」
「駄目だ。いいからさっさと練習しろ」
「いくらやっても乗馬なんて無理ですよー!!」

だけど言える。
今の時代に乗馬の授業なんかするのはアッシュフォードだけだと!!

「無理じゃない!お前以外は皆合格したんだ。いいか、多くは望んでない。乗って少し歩けば単位はやる。一番低いやつをな。だから乗れ。とにかく乗れ。」
「それが出来ないから頼んでるんじゃないですか!」

こんな高い馬に踏み台もなしに乗れというのは至難の業だ。俺、身長低いし…
なんとか足をかけたって振り落とされるし。

「何度もコツは教えたはずだ。」
「俺には無理です!現代社会には車や自転車があるんですからそっちに乗りましょうよ!」

まあ、自転車も補助輪付き出なきゃ乗れないけどね…
イタリアじゃ外に出ないから必要なくて、7年前に乗ったのが最後だったし。
なんか、俺ってほんとにダメツナだよな…

「屁理屈を言ってる暇があるなら練習しろ。4時から職員会議なんだ」
「無理ですよ。どーせ俺なんか留年ですよ。卒業できないままイタリアに戻るんです。そうですよ、獄寺君と山本だけ進級して、俺は1人でずっと1年生ですよ」
「すさんでないで練習しろ!」

成績簿で頭を叩かれる
うう…ヴィレッタ先生容赦ない。このスパルタっぷりはリボーンに通じるところがある。
ということは、出来るまで何度でもやらせるってことか…

「ヴィレッタ先生、進路希望調査持ってきまし…ツナ?」
「ルルさ…」
「…どうしてヴィレッタ先生と一緒に居るんだ?」
え、なんでそんな怖いんですか。笑顔なのに目が笑ってないですよ!?

「沢田は補習だ。…ちょうどいい、ルルーシュ。お前、乗馬が得意だろう。沢田に教えてやれ。提出が遅れた罰だ」
「はい!?」
なんでそんなことになるんですか!?

「乗馬ですか。いいですよ、そのかわり俺の教え方でやりますから。」
「乗って歩けばもうなんでもいい。職員会議が終わったら見に来るから6時までになんとかしろ」
「無理ですよ6時なんて!」
「わかりました。」
ちょ!なに了承しちゃってるんですかー!!

「ルルさんはわかってない!」
「何がだ?」
「俺がどれだけダメツナかってことをです!!」

「力説してる暇があったら練習しろ!6時だからな!」
最後にもう1度成績簿で頭を叩いてからヴィレッタ先生は職員室に向かった
うう…痛い

「誰がわかってないって?」
急に影が出来たことに驚くと、すぐ後ろにルルさんが立っていた
「ルルさん!?」
凄く距離が近い…!!

「俺以上にお前をわかっている奴がいるのか?」
「ゃぁ…!」

耳元で囁かれ、背中にゾクリとしたものが走る

「補習をするんだろう?早くしないとヴィレッタ先生に怒られるぞ?ほら、手はここだ」

後ろから包み込むように手を重ねられ、馬の背に当てられる
もう片方の手は足に添えられ、ステップに乗せられた

「足をかけて…そう、力を入れて。」
「やっ…耳元で喋らないでぇ…」

これは授業。そう思うのに。添えられた手が身体をなぞるように動いて、耳元で囁かれて。思わず反応してしまう。

「どうした?」
ルルさんは楽しそうに俺を見てる。
この人意地悪だ!!

「っ…!!えい!!」
悔しくて、一泡吹かせてやろうと思い切って馬に飛び乗る
でもやっぱりバランスを崩して
「ひい!」
「ツナッ!」

いつものように落下した…はずだった。
でも、痛くない。
恐る恐る目を開けると、ルルさんが俺を抱きかかえていた

「…!!」
「全く…どうしたらあんな落ち方をするんだ」

どうしよう。どうしよう、ときめいてしまった。
あんなのずるい。反則だ。ルルさんだって運動苦手なくせに。ちくしょう。かっこいい。

「聞いているのか?」
「あっ!」
隠していた顔を捕まれ、思いきりルルさんの方に向けられる
俺の顔を見たルルさんは…驚いた後、ニヒルな笑みを浮かべた

「…なっ、なんですか!」
「いや、別に?」
「はっきり言ったらどうですか!」
「お前が俺をどれだけ好きか良くわかった」
「なっ!うぬぼれないで下さい!」
「お前は好きでもない相手に赤くなるのか?」
「ちょっと黙りましょうかルルさん!」

ああああもう!

「どこへ行くんだ?」
「散歩ですよ散歩!」
「駄目だ、練習を続ける。」

恥ずかしいからどこかで熱を冷まそうと思ったのに、手首をつかまれてそれも叶わない

「教師だからな、俺は」
先生はこんな密着したりしないです!

そのまま腕を引っ張られ後ろへ倒れこむと、ルルさんが俺の身体を包み込んで、抱きしめた
「逃げないように、しっかり捕まえておく必要があるな」
「ルル、さ…」
しっかりと回された腕が、触れている胸が、どうしようもなくどきどきして。
抵抗をやめるとルルさんは左手を俺の腰にまわし、右手で顎を持ち上げた
そっと目を閉じた…時。

「ボンゴレから離れなさいぃぃぃ!!!」
「ゲホッ…ゴホッ…」
「……」

ムードも何もかも一瞬でぶちこわす奇声と共に、砂埃が巻き上がり咳が出た。
砂埃で痛い目をなんとか開けると、なんか怒ってる骸と、骸を乗せて走ってきたのだろう、ポニーチャンネルを発動したまま倒れてゼーゼー言ってる犬の姿があった。

「何をしてるんですか!僕は認めません!認めませんよ!」
「六道…」
ひっ!ルルさんが見たことも無いくらい怒ってる!!
甘いムードは一転して、一触即発の状態へと変わってしまった
てか、犬大丈夫?

「僕の目の黒いうちはボンゴレに指1本触れさせません!!」
「お前に認めてもらう必要は無いし、指1本どころか既に」
「骸お前なんでこんなことにいるんだよ!!!」

何言おうとしてるんだこの人ー!!!
これ以上聞こえないように声を張り上げると、何故言わせないんだとばかりにルルさんが睨む
ひい!なんで俺睨まれてんの!

「クフッ。恋人に逢いに来るのに理由は必要ないでしょう?」
何言ってんだこいつ。頭大丈夫か

「おい、誰と誰が恋人だ」
ちょ、反応するんですかルルさん

「もちろん僕とボンゴレに決まってるでしょう」
「ふざけるな。ツナは俺と付き合ってるんだ。妄想も大概にしてもらおうか」

「だからそんなものは認めないと言っているでしょう!」
「認めてもらう必要はないと言っている」

ちょ、2人とも?なんか火花ちってるー!!!

「大体なんで君がこんなところでボンゴレと一緒に居るんですか!馬上プレイですか!?馬上プレイなんですか!?」
「体育の補習に付き合っていただけだ。誰がそんなことするか。俺はお前と違って変態じゃないんだ」
あれ?馬の上じゃないけど手は出そうとしてましたよね?

「ほっ、保健体育の補習!?」
「体育の補習だ!」

「なんでその教師役を君がするんですか!」
「ヴィレッタ先生に頼まれたんだ。俺は乗馬が得意だからな」

「僕だって得意ですよ!いいでしょう。どちらがボンゴレにふさわしいか乗馬で勝負です!君がまけたら教師役は僕のものです!!」

なんでそうなるんデスカ!?

「馬鹿かお前は?そんなもの受けるわけが無いだろう。」
「おや?負けるのがこわいと?」
「何だと…?…いいだろう。その勝負受けてやる!!」

ちょ!何言ってるんですかルルさん!!

「クフッ、そうこなくては。犬!もう1度ポニーチャンネルです!!」
「もう…無理…びょん…」
「…え?」
「つかれた…びょん…」
「ちょ、ええええええ!?」

骸は意識を失った犬を揺さぶって起こそうとするが、全く効果は無い

「どうした?勝負するんじゃなかったのか?」
いじわるい顔でルルさんが言う
うわあ、凄く楽しそう…。

「…仕方ないですね、馬小屋から馬を連れて…」
「駄目だ。馬の管理も勝負のうちだ。」
「なんですかその後付ルール!卑怯ですよ!」
「うるさい。俺に利のない勝負なんだからこのくらい当然だ」

ルルさんは馬の手綱を引くと、骸に向かって走り出した。結構スピード出してるな、あれ…

「ちょ!?やめなさい殺す気ですか!?」
「何だ?よく聞こえないな」
「聞こえてるでしょう!!」
「全く何も聞こえないな。」
「ちょ!ほんとに止めなさいいくら僕でも馬に蹴られるのは…ぎゃああああ!!」
「何か言ったか?」



「……帰ろ」




補習をサボったことで、次の日ヴィレッタ先生にこっぴどく叱られた。