青々とした空の広がる昼下がり―
休日である今日は学園も、めずらしく軍の仕事もお休みで。
せっかくだからアーサーに何かおもちゃでも買ってあげようと宿舎を飛び出したのが1時間前のこと。なのだが。

何でだろう。ものすごく視線を感じる。それも凝視されているわけではなく、みなチラチラとこっちを見ては目をそらす感じだ。
…どうしてだろう。ちゃんと変装してるから、僕だってばれてないと思うんだけどな。

頭を悩ませながら歩いていた、その時。

「あら?もしかして…スザクですか?」

バレた!?と思い振り返った先にいたのは、思いもよらない人だった

「ユ、ユーフェ…!?むごっ」

ピンク色を髪を持つ女性は僕の口に手を当てると、もう片方の手の人差し指を自信の口元に立てて言った

「駄目です!そんな大きな声で…ユフィと呼んで下さい。」

顔だけで頷くと、その答えに満足したユフィが手をどける

「どうしてこんなところに?」
「初めてスザクにお会いしたときのように、エリア11の人の暮らしを自分の目で見てみたいと思いまして」

ごくあたり前のようにつむがれた言葉に、嬉しさと、驚きと、ほんの少しの呆れが混ざった

「ですが、今は副総督としてお顔が…」
「大丈夫です!今度は変装もしてきましたから!」

ユフィが指差したのは自分の物とは少し形の違うサングラス

「スザクが以前変装として使っていたのを思い出して、真似してみたんです!」

確かにそれなら変装はばっちりだ。と思う。むしろ完璧だ。うん。さすがユフィ。

「それで護衛もつけずにこのような場所に?」
「SPがわからないようついてくるという話だったのですが、先ほどパレードが横切った際にはぐれてしまった様で…」

休日ということも有り、今日はパレードやお祭りがあちらこちらで開催されていた。

「このままお1人で行動されるのは危険です。自分が政庁までお送りします。」
「ありがとう。けど、その前に…」

嬉しそうに瞳を輝かせて、言う

「もう一度、エリア11を案内してくれませんか?スザク。」
「…イエス・ユア・ハイネス」

その瞳に逆らう術を、僕は持ち合わせていなかった





「なんだか初めて会った時のことを思い出しますね」
「驚きましたよ、あの時は」

まさか女の人が空から降ってくるとは。しかもそれが皇女殿下だなんて、まったく予想していなかった。

「ああでもしないと外に出してもらえなかったんです。」
「ですが、あんなことをしたら余計警備が厳しくなるのでは?」

ユフィは頬を膨らますと、不満そうに呟いた

「そうなんです。最近、お姉さまは私を外に出してくださらないの」
「今日はよくお許しが出ましたね」
「お姉さまに感謝の気持ちとして、プレゼントを差し上げたいと言ったらようやく。」

なるほど。コーネリア総督はユフィを溺愛しているとロイドさんが言っていたから、よっぽど嬉しかったのだろう。

「本当は内緒にしたかったのですが、本当のことを言わないと外出許可は出せないと言われてしまって…」

外に出たい方便ではなく本心からプレゼントを渡したかったようで、内緒にできなかったことが悔しいみたいだ

「何をお渡しするかは決まってるんですか?」
「まだなんです。一緒に選んでくださいませんか?」
「えぇ!?」

コーネリア総督へのプレゼントを、僕が!?

「私とお姉さまは趣味が違うので、何が喜んでもらえるのかよくわからないんです。」
「ユフィのあげるものならなんでも嬉しいと思いますよ。」
「それじゃあ駄目なんです!!本当に心から喜んでいただきたいのです。同じ軍人であるスザクなら、私よりお姉さまの好みがわかるんじゃないかと…」

同じ軍人といっても、僕とコーネリア総督は天と地ほどの差があるよ…!!

「お願いします。スザク…」

瞳を見つめてそう言われてしまえば、僕に断るという選択肢は存在しなくなってしまう。

「…わかりました。だけど、あくまで僕はアドバイスだけで品物はユフィが選んでくださいね?」
「はい!ありがとうございます!!」

引き受けてしまったけど、コーネリア総督が欲しがりそうなものってなんだろう…
総督は女性でありながら武将として名を馳せている
なら、体を鍛えるために…ダンベル…とか…?

「とりあえず、僕の知ってる店があるのでそこに行ってみませんか?」
「はい。」

とにかくスポーツ道具なら、普段から使ってもらえるんじゃないかな。
そう思いこの間発見したスポーツ店に向かうと、入口の前に人が1人立っていた
荷物を抱えているから、どうやら買い物帰りのようだ

「…ん?あれって…」
「スザクの知り合いですか?」

ススキ色で、ツンツン頭の…

「沢田君?」
「ヒィィ!!な、なんで俺の名前!?」

沢田君は僕達と目を合わせないよう必死に逸らしていたようで、声をかけるとものすごい勢いで肩が上下した

「あれ?僕のこと覚えてない?」
「スミマセン人違いです!!」

いやさっき沢田君って言ったらなんで俺の名前って言ったよね
ああそうか、サングラスかけてるから誰かわからないのか
僕はサングラスを外して、沢田君に視線を合わせるように少しかがむ

「枢木スザク。ルルー…!!」
『ルルーシュの友達』と言おうとしてはっとした
ユフィにルルーシュのことを聞かれたらまずい…!!

「スザクさん!?なんだ、俺てっきり敵対マフィ…あああ!!なんでもありません!!」

ルルーと変なところで途切れたことをつっこまれないか心配だったけど、沢田君は気にとめて無いみたいだ。
よかった…
ちらりとユフィの方を見る。ユフィも気にしてないようで、というか、彼女の興味は今沢田君に注がれているみたいだった

「…あ、スザクさんの彼女さんですか?スミマセン、俺気がつかなくて…」
「違うよ、彼女は…!?」
「はじめまして。ユフィと申します。」

ユフィはサングラスを外して挨拶をしている。
サングラスを、外して…!?

「沢田綱よ………ええ!?ユーフェ!?」
「わーわーわー!!!」
おそらくユーフェミア様と言おうとしたであろう沢田君の言葉が聞こえないようになんとか遮る

「ユフィと呼んでください、沢田さん」
「どうして、え、スザクさんとユー…ユフィ、様、が…?」
「ユフィ様でなく、ユフィと呼んでください」
「えっと、偶然というか、成り行きというか…」

なんだかもうめちゃくちゃだ。
沢田君は頭が付いていかないようで、「はい、わかりました…」と、目が点になりながら話している

「ユフィ、サングラスかけなおしてください。他の人に見られたら…」
「スザクのお友達にサングラスをかけたままじゃ失礼に…」
「俺はいいですから、かけてください。」

沢田君がそういうとユフィは素直にサングラスをかけなおした。
かけなおしてくれたこと安心したのもつかの間、もっとも重要な問題が解決していないことを思い知らされる

「沢田さんはスザクの仲良しさんなのですか?」
「あまり面識はないんですけど、部活の先輩の幼馴染だって聞い」
「さささ沢田くん!!1人で買い物?誰かと一緒じゃないの!?」

まずい。このままユフィと沢田君が会話を続けたら絶対にいつかルルーシュの話題が出る。というか今も出そうだった!!
万が一ルルーシュの名前をユフィが聞いたら、アッシュフォード学園にいることがばれてしまうかもしれない。
ユフィがルルーシュとナナリーをどうこうするとは思わないけれど、コーネリア総督や皇帝陛下の耳に入ってしまえば話は変わってくる。

「あ、はい。ルルさんと一緒に部品の買い出」
「あああー!!えーと、あははー!!」

まずいまずいまずいまずい!!
ていうかルルーシュと一緒に!?
急いで店内の方を見ると、ルルーシュがレジで何かを書いてもらっているのが目に入った
部品の買い出しというからには、たぶん領収書だろう。

「スザクさん…?」
「どうしたんですか?」

さっきから挙動不審な僕を不思議に思った2人が心配そうにこっちを見ている
そして、騒いでいたからだろう
ルルーシュがこっちを向いて…目を見開いた
そう、今ユフィと一緒だから君はしばらくそこで待って…

「ツナ!!!」

えええええ!?
あろうことかルルーシュはたった今もらった領収書を放り出し、おそらく彼にとっては全力疾走で店から走り出して来た
まっすぐ、こっちへ向かって…!!

「ルルさ…」

沢田君も驚いてルルーシュの方を見詰めている
ルルーシュの声にユフィも振り返りそうになっていて。僕はあわてて彼女の手を取った

「こっちへ!!」
「スザク?」
「え!?ちょ、スザクさん!?」

ユフィにルルーシュを見られたら駄目だ!
とにかくここから離れないと!!

「君の正体に気づいた人がいる!早くここから離れないと騒ぎになる!!」
「わかりました!」
「あの!?スザクさん!?放してください!!」
「ツナ!!」

ああもう叫ばないでルルーシュ!!
ユフィが振り返ったらどうするんだ!!
ていうかなんで追いかけてきてるの!?

「あそこ曲がるから!もう少し頑張って!!」

息が切れてきているユフィには悪いと思うけど、もう少し行かないとルルーシュを播けそうにない
いつもはすぐダウンするのに、何で今日に限ってこんな必死に追ってくるんだよ!!

小さな公園まで来たところでようやくルルーシュは追ってこなくなった

「ハァ…ハァ…」
「ごめんユフィ。」
「いえ、こんなに走ったの初めてで、なんだか楽しかったです」
「ならよかっ…」

「…あの……」

え?
僕たちの他に誰もいないはずの公園で、真後ろから突然第三者の声がした

「あの、なんで俺まで…?」
「沢田君!?」

どうしてここに!?
はっとして左手を見ると、僕の手はしっかりと沢田君の手を掴んでいた

「えっと、放してくださいって言ったんですけど…」
「ごごごごめん!!無我夢中だった気付かなくて!!」

右手でユフィの手をつかんだのと一緒に、無意識のうちに左手で沢田君の手を掴んでいたらしい
じゃあ、ルルーシュが追ってきてたのって…

「あ、すみません。電話が…」

沢田君が通話ボタンを押すと同時に、ルルーシュの声が響き渡った

『ツナ!?無事なのか!?』

そんな大きな声で話したらユフィに聞こえる…!!

「はい。スミマセン、はぐれちゃって…」
『そんなことはいい!無事でよかった…待ってろ、今すぐ助けに行く。携帯が繋がったからGPSで居場所は…』
「ちょっと貸して!!」
「え、スザクさん!?」

ルルーシュがここに来るのはまずい!!
沢田君から強引に携帯を奪い取った

『ツナ!?くっ・・・誰だ!!何の目的でツナを浚う!!あんな白昼堂々と…』
「僕だよルルー…ルー…ルー…ルルルー」

名前が呼べないってこんなに不便だったのか!!

『!?その声…まさか、スザクか!?どうしてお前が…というかそのふざけた歌はなんだ!?なぜツナと一緒にいる!!サングラスの不審者は!?』
「ふざけた歌…いや、歌じゃなくて…というか、不審者でもなくて…」
『なんだ?はっきりしないなお前らしくない…まあ、今はそんなことどうでもいい。ツナは無事なのか!?なぜお前と一緒にいる?』
「えっと…」
「代わって下さい」

返事をする前に、沢田君が僕から携帯を奪う。元から沢田君のだから、奪うという表現はおかしいかもしれないけど。

「ルルさん」
『ツナ!?』
「大丈夫です。スザクさんに助けてもらいましたから。今からそっちに戻ります。」
『スザクが!?…そうか。お前が無事でよかった。スザクには俺からも礼を言っておく。今はスザクと一緒なんだろう?1人で戻るのは危ない。俺が今からそっちに行くから…』
「大丈夫です。軍の人が来てくれたので近くまで送ってもらいます。ルルさんは店の前で待っててください」
『だが…!!』
「大丈夫です。店の前で荷物落としちゃったので拾っておいてもらえますか?」
『それは構わないが、やはり俺がそっちに…』
「今こっち人が多いので俺が行った方が確実です。」
『だが…』
「大丈夫です。待っててください。それじゃあ、また後で」
『ツ…』

何か言いかけていたのを気づかないふりをして、沢田君は通話を切った

「それじゃあ、友達が待ってるので戻ります」
「巻き込んでしまってごめんなさい。」
「大丈夫です。俺もこんなに走ったの久しぶりだったから、楽しかったです。」

「それじゃあ失礼します」と、沢田君は何も聞かずにルルーシュのところへ戻って行った

多分、沢田君は気づいてた。
ユフィの正体がばれたわけじゃないこと。僕が何かを隠していること。
けど、気付かないふりをしてくれた。

「スザク」
「…!!なんですか?」
「優しい人ですね、沢田さん」
「…はい。」

ルルーシュ、流石は君の選んだ人だ。