「沢田の遠縁のL.L.君だ。長いこと外国で暮らしていたから、帰国を機に中学から勉強しなおすことになったそうだ。皆、仲良くするように」
「L.L.です。皆さんとは少し年が離れていますがよろしくお願いします」


綱吉の遠縁設定なんて聞いてない。聞いてないぞアルコバレーノ!!




標的7 並盛中




転入の挨拶をして席に座る。
宛がわれたのは綱吉の隣で、獄寺が恨めしそうに睨んでいた。
親戚設定である俺を同じクラスにしたり、席を隣にしたり、アルコバレーノはどんな裏工作をしたんだ?
だが同じクラスや隣の席は都合が良い
これならいつ敵襲があっても対応できる
最も綱吉の話を聞く限りその心配はなさそうだが、油断は出来ない。

「10代目の遠縁ってどういうことだ!」
「ツナの親戚だったなんて知らなかったのな〜」
「山本、それ違うよ…昨日一緒に居たよね?」

朝のHRが終わるとすぐに獄寺と山本が綱吉のところに来て輪を作る
アッシュフォード学園のクラスでも、ツナはこうやって2人に囲まれていたのだろうか。

「アルコバレーノの指示だ」とだけ言うと、獄寺が悔しそうに黙り込む
なるほど、こいつの中では【綱吉>アルコバレーノ>その他】というわけか…

それはそうと、やるべきことをしなければ。
立ち上がると、綱吉が不思議そうに俺を見上げた

「どこ行くの?もう授業始まるけど」
「調べたいことがあるんだ。午後には戻るから。」
「しょっぱなからさぼりー!?」

それはまずいよ!という綱吉に笑って誤魔化し教室を出る
一刻も早く確かめねばならない。
ここが…この世界の並盛中学が、メローネ基地の一部であるのかを。
入江と戦い、ゼロの正体をツナに告げたのは廃校となった並盛中だった。

この世界と俺のいた世界は大きく異なる
ミルフィオーレというファミリーは聞いたことがないとアルコバレーノは言っていたし、綱吉の通う中学に他のマフィアの基地があるとも考えづらいがもしもという場合もある
メローネ基地の構造は昔調べた
もし、同じように基地が存在するならば…

地下へと続く入り口があるはずの場所にたどり着く
周囲に人が居ないのを確認し、取っ手に手をかけた

「ちゃおっす」

…そこにいたのは入江でも白蘭でもなく、綱吉の家庭教師だった

「……何故お前がここにいる」
「ここは俺のアジトだぞ」

消火栓の中がか?

見たところどこかに繋がってるわけでも無く、ただ消火栓の中を空にして、そのスペースを利用しているだけのようだ
アジトというより子供の秘密基地に近い

「おめー今失礼なこと考えてるだろ」
「そんなことないさ。それより、何か改造されたあとや、通路を埋め立てたようなあとは無いか?」
「改造したあとならあるぞ。やったのは俺だがな」
「…他にもお前のアジトはあるのか?」
「俺のアジトは学校中に張り巡らされてるぞ」

それが本当なら、ここにメローネ基地は無いだろう
アルコバレーノが敵の基地を見逃すはずは無い

「ならいい。邪魔したな」
「ちゃんと授業に出ろよ中学生」

…何百年も前に中学は卒業してるがな。

メローネ基地が無いということは、やはりミルフィオーレは存在しないのだろう。
元々ミルフィオーレは入江正一によって急成長を遂げたファミリーだ。
入江はロボット工学に精通していてその道を目指していたようだし、ブリタニアが存在しない以上マフィアになることは無いだろう

ならやはり、警戒すべきは六道だ

情報が欲しい。そして知識も。
知識が無ければ有益な情報も無意味なものとなる
この世界のことを知らなければ話にならない

教室には戻らず、図書室へ足を向けた











「………」

1、2時間目の授業をサボり本を読み漁った結果、色々とわかった。
手に持っていた本を閉じるとそれを棚に戻す

世界情勢、常識、この国の成り立ち…
それらは俺の居た世界と随分と違っていたが、数学や科学は同じようだった

「世界共通語は英語…ブリタニア語とは少し違うんだな」

俺の世界には無かった言語だが、これならすぐにでもおぼえられるだろう
本棚から適当にテキストを取った時だった



「誰かいるの?」


随分と懐かしい声が図書室に響き渡った



「雲雀、恭弥…?」
「ワオ。赤ん坊の連れてきた転入生じゃないか」

遙か昔クラスメイトだった雲雀恭弥が、何1つ変わらず目の前にいた。
いや、俺の知っている雲雀より少し若いが、それでも懐かしい

「俺を知っているのか?」
「君の入学手続きしたの誰だと思ってるの?」
「アルコバレーノじゃないのか?」
「誰?アルコバレーノって。」
「お前の言う赤ん坊のことだと思うが」
「赤ん坊に頼まれて、諸々の手続きをしたのは僕だよ。」
「そうだったのか。助かったよ、ありがとう」
「君のためじゃないよ。赤ん坊に貸しを作りたかっただけだからね」

それにしても、何故雲雀が手続きを…?
相変わらず指定外の学ランだが、制服を着ているのだから雲雀も生徒なはずだ
生徒が生徒の入学手続き…?意味がわからない
まさかこの世界にはそうする決まりでもあるのだろうか。

「それより今は授業中だよ。風紀委員長の前でサボるって言うなら…咬み殺すよ」
「自習してるんだ。英語の」
手の中のテキストを見せながら言うと、次の瞬間それは真っ二つになっていた

「この時間、授業が自習になったという報告は受けてないよ」

おい、一生徒でしかないお前がどうしてそんなことを知ってるんだ

「俺は理科と数学は出来るが英語は出来ないんだ!だから勉強しようと図書室に…」
「そんな勝手は許さないよ。でも…そうだね。僕に勝ったら見逃してあげる。赤ん坊の知り合いってことは強いんでしょ?」

殺気を飛ばしながら楽しそうに雲雀がトンファーを構える
ちょっと待て。人の話を聞け。なんだその評価基準は。

「武器は使わないのかい?こないならこっちからいくよ」

え゛…

雲雀が視界から消えたのと、腹部に衝撃を感じたのは同時だった

「グハッ…!」
「……」

雲雀は無言でトンファーを振るい続ける

「…ねえ、なんで反撃してこないの?まさか本当に弱いの?」

絶えず訪れる痛みで答えられるはずも無い

暫くすると飽きたのか「つまらない、がっかりだ」と呟いて、雲雀は図書室を後にした


不死になったからといって痛みを感じないわけじゃない
床に倒れこんだまま、蛍光灯の眩しさに目元を手で覆った


…俺は馬鹿だ


何をうぬぼれていた


どうして綱吉を護れるなんて思った


こんなにも俺は無力じゃないか



『ヒバリさんですか?ヒバリさんは…怖いですよ。凄く怖いです』
『ヒバリさんは骸に戦いで負けたことがあるんです。それがヒバリさんの中では許せない事みたいで…』


六道は雲雀より強い。

俺は雲雀に手も足も出ない

それなのにどうやって六道から綱吉を護るんだ

コードがあれば六道輪廻に対抗できる?
使う前に攻撃されたら終わりだ

雲雀の動きが見えなかった俺が、六道より早くコードを発動出来るはずがない


「っ…」


あの頃と何も変わらない
力が無いから、自分の身すら護れない




「派手にやられたな」
「…アルコバレーノか」
「手も足も出ないとはな。それでもツナの共犯者か?」
「っ!うるさい!お前に何がわかる!!」

俺はツナを護れなかった
それどころか殺してしまった。自らの手で。誰よりも大切な人を。
憑依されていたとしても、この手がツナの命を奪ったことに変わりは無くて。
仇を討つこともできずに、何百年も彷徨い続けて

「お前の世界のツナのことは知らねーが、そんなよえーんじゃファミリーとして認めるわけにはいかねえ。足手まといだ」
「っ…」

心臓が嫌な音を立てる

「君が足手まといで弱点って事をですよ」

それは1番、言われたくない言葉だった

「だから俺が鍛えてやる」
「何…?」
「ツナのファミリーとして相応しい男にしてやるつってんだ。やるか?」

そんなもの、聞かなくても答えは決まっている

「もちろんだ。やらせてくれ。…頼む」
「よく言ったぞ」

ニヤリとアルコバレーノが口元を上げた

「俺の修行は厳しいからな」