まだ13だというツナは、俺の記憶より元気で、明るくて、年相応の子供だった
マフィアになりたくないと言い、家族と平和に暮らしているツナ。
まるで自分の願望を押し付けているようで、さすが夢だと苦笑する
ツナが幸せに暮らせる世界。どんなに望んだところでそれは、もう2度と手に入らないものなのだ。
ツナは…死んだのだから。
せめてこの夢が少しでも長く続けば良いと、そう思った



標的5 現実


風呂に入るというツナと入れ替わりで部屋に戻る
ツナの部屋は寮のツナの部屋とは違い散らかっていて、ゲームや漫画が散乱していた
そんなところも年相応で。本当に、夢物語だ。

「お前、まだ夢だと思ってんのか?」
床に落ちていたゲームソフトを拾い上げたところで、アルコバレーノが言った

「夢の中で、これは夢じゃないと何度も否定されるのは珍しいな」

もしかしてそろそろタイムリミットなのだろうか。
もう少し、せめてもう少しだけツナと一緒にいたい。

「どうすれば夢じゃねえって信用できるんだ?」
「そうだな、1度寝て起きて、それでもツナが目の前に居たら信じられるかもな」

だがそんなことはありえない。これは俺にとって都合のいい夢なのだから。

「じゃあ寝ろ」
頭部へ衝撃を感じるのと同時に目の前が真っ暗になった
そんな、まさか、本当にもうタイムリミットなのか?
嫌だ、もう少しだけ、せめて最後に、ツナの顔を

思考とは裏腹に意識が遠のく
次に目が覚めたとき、俺は絶望するだろう
死にたくても死ねない身体で、お前の居ない世界をまた、永遠繰り返すのか…


「…るつー…L.L.!」
暗闇しかない世界に光が広がっていく
段々と鮮明になる視界の中心に、誰よりも愛しい人の姿があった

「こんなことで寝たら風邪引くぞ。布団敷くから起きろって」
「…ッ…ナ…?」

声がかすれる

「ほら起きた起きた。机どかすから手伝っ…」
「ツナなのか!?」

腕を掴んで引き寄せる
触れられる。暖かい。目の前に、ツナがいる

「寝ぼけてんのか?」
「…ほん、とうに…」

「お前は異世界から来たんだ」
「俗に言うパラレルワールドだな。」
「とにかくここはお前のいた世界とは別の世界なんだぞ。」

「俺は別な世界に来たのか…?」
「は!?いまさらー!?」

だとしたら、これは夢などではなく、目の前に居る、このツナは

「生きてる…?」
「当たり前だろ?何変なこと言ってんだ?」

嘘だ、こんな都合のいいことがあるはずがない
パラレルワールドなんて推論に過ぎない。世界を越えるなど不可能だ。
理性がそう警告するのに、目の前のツナがそれを否定する
だって、ツナが生きている

「あのさ、言いづらいんだけど…元の世界に戻りたいとか言わないよな?」
「当たり前だ。今、元の世界に戻されたら俺は気が狂う」
「よかったー…ってよくないよ!何物騒なこと言ってんの!?」

だが事実だ。もし今あの世界に戻ったら、目の前からツナが消えたら…俺は発狂するだろう。

「教えてくれ。この世界のこと、お前達のこと…何故俺が呼ばれたのかを」

やっと話が出来るようになったか、とアルコバレーノがため息をついた







「つまりこの世界にブリタニアは存在せず、暦は西暦で、日本は永久に戦争を放棄しているということか…?」
「うん、まあ簡単に言うと。」

ツナに告げられた世界情勢は、この世界が俺の居た世界と別であるということを思い知らせた
ブリタニアが存在しない。そんなこと考えもしなかった。

「…獄寺、山本、笹川、雲雀は同じ中学に通っていて、現在ファミリーはこの4人だけなんだな?」
「友達と先輩だから!」
「4人じゃねーぞ。お前もツナのファミリーだろーが。」

「伝説の異界人…王の力…だから俺が…」
「あのさ、王の力ってその…傷が治る力のことなの?」
「…ああ、そうだな。多分そうだろう」

ギアスを与えることができることは言わない。
不死の苦しみを誰かに押し付けることはしたくない。
これは、俺への罰だから。

「L.L.の世界ではみんなその力を持ってるのか?」
「いや、俺の知る限りでは俺を含めて4人だけだ」
C.C.、V.V.、そして…ブリタニア皇帝。

「どうしてL.L.は…」
「呪いみたいなものだ。それより、六道骸という名に心当たりは?」

これ以上コードについて聞かれればギアスのことを話さねばならなくなる。
無理矢理話題を変えると、ツナは少し不満そうだったがちゃんと答えてくれた。

「無いけど…その人、L.L.世界の俺のファミリーだったの?」
「いや、知らないならいいんだ」

「よくわかった。ありがとう。もう遅いからそろそろ寝よう」
「え?うん…もういいの?」
「ああ。充分だ」

六道がツナと接触していないことさえわかれば、もう。

「おやすみ」

電気を消して布団へ入る
暫くするとツナの寝息が聞こえてきて、酷く切ない気持ちになった

ツナに、逢えた。
もう2度と逢えないと思っていたのに。

最後に見たツナは、血で赤く染まっていて、見たことも無いくらい顔は真っ青で。
でも、今目の前で元気にツナは生きていて。

嬉しい。だけど、切ない。
このツナは、俺の知っているツナじゃない。

アッシュフォードで過ごした日々や、共にミルフィオーレと戦ったことをこのツナは知らない
一緒に部活をしたことも、ナナリーと仲良くなったことも、たまに2人で出かけたことも。

知るはずも無い。だってこの世界のツナは、俺と共に過ごしたツナとは別人なのだから。
ほんの数時間過ごしただけでもわかる、様々な違い。
でも、この世界のツナも、ツナだ。

争いが嫌いで、人のことばかり心配する沢田綱吉だ。
俺が好きになった、ツナだ。

ならば俺は今度こそ、お前を護ろう

あの時無かった力がある。
六道輪廻に対抗する力…コードギアスが。






「眠らねーのか?それとも眠れねーのか?」

朝5時を過ぎたあたりで、アルコバレーノが言った

「随分と起きるのが早いんだな」
「話があるみたいだからな、ツナには聞かれたくねーんだろ?」

ツナは熟睡していて起きる気配は無い
それを確認してから、告げる

「ああ…六道骸についてだ」
「…」
「ツナは知らないと言った。だが、お前は聞いたことがあるんだろう?六道の名を」

昨日奴の名前を出したとき、一瞬だがアルコバレーノが反応した
それを見逃すほど、俺は愚かではない

「復讐者の牢獄に捕らえられてる罪人だ。ソイツがなんだってんだ?」
「俺の世界では、六道はツナの霧の守護者だった。」
「…驚いたな。お前、守護者についても知ってんのか。」
「話を逸らすな。あいつは…六道はツナを殺した。守護者でありながら、自分勝手な考えでツナの命を奪ったんだ」
「…」
「この世界の六道も何をするかわからない。俺の世界で六道は脱獄囚だった。捕らえられてるからといって安心せずに、奴には注意してくれ」
「いいだろう。そのかわり1つ聞かせろ。お前、ツナの何だったんだ?どうしてそんなにファミリーについて詳しい?」

『お前、ツナの何なんだ?友達か?先輩か?ただの部活仲間か?それとも…恋人か?』
「…L.L.の世界では俺達どういう関係だったの?」

それは、元の世界のアルコバレーノにも、この世界のツナにも聞かれた言葉だ

「俺はツナの共犯者だ」
「マフィアのボスの共犯者だと?」
ああ、答えまで同じか。
「そうだ。俺はテロリストだったからな」
「過激だな」
「それでも、ツナと同じ世界で生きるにはちょうどよかったさ」

あの頃世界はそれほどまでに、俺達に冷たかった

「…話は終わりだ。お前はこれに着替えろ」
アルコバレーノはどこからか服を取り出すと俺に差し出す

「これは…」
「急いで用意してやったんだ。感謝しろよ」

ニヤリと笑うアルコバレーノに、なんだか嫌な予感がした