アッシュフォード学園に向けて水中を進む蜃気楼は、1人乗り…のはずである。 「えっと…ゼロ?」 「どうした?」 「狭くない?」 「全然。」 しれっと言うその人物はゼロことルルーシュ・ランペルージ。 俺の先輩で、仲間で、こいびと…だ。 「け、けど、!蜃気楼1人用だし、やっぱり俺は別なルートから…!!」 「狭いならもっとくっつけばいいだろう。」 ぐいっと腰を引かれ、膝の上に乗せられる 恥ずかしいからと無理な体勢にも関わらず、座席の後ろにいた苦労が水の泡だ 「ゼ、ゼロ…!!」 「なんだ?」 ゼロは意地悪い笑みを浮かべて、楽しそうに俺を見てる ここで照れたら思うツボだ…!! 平常心を保ち、全然気にしてない風を装わなければ。 話題変え、話題変え…!! 「ゼロ。本当に俺が一緒に行って大丈夫なの?」 「ああ。カレン奪還には軍の中に侵入する必要があるからな。ナイトメアだけでなく、生身での戦闘も回避出来ない場合が想定される。お前が必要なんだ、ツナ。」 「そっか。」 そう言われてほっとした。 ただ好意で連れてきてもらったのだとしたらカレンに申し訳ないから。 カレンだって、学園に戻りたいはずだ。たとえみんなと会うことが出来なくても、懐かしいあの場所に。 「ああ…それより」 「ん?」 「ゼロじゃない。ルルーシュだ、今はな。」 狭いコックピットの中、只でさえ近い距離を詰めるようにルルさんが顔を近づける 「!ちょ、ルルさん!?」 「敬語も無しだ。恋人だろ?俺達は」 ニヤリと意地悪い笑みを浮かべて、ルルさんは壁に手をついた。 その手は俺の真横に置かれていて、身動きが取れなくなる 「ルルさ……ま、前!」 「自動操縦で学園まで行くようになってる」 「え!?でも、学園にナイトメアで乗り付けたら…」 「その心配はない。水中から入るからな」 「で、でも!」 「いいから少し黙っていろ」 !うわっ!! ルルさんの綺麗な顔が近付いてきて、自然と目をつぶってしまう 無意識のうちに、ルルさんの背中をぎゅっと掴んだ ドキドキと心臓が煩く音をたてる 「…ふっ…」 最初は重なっただけのそれは、角度を変えて段々と深いものに変わっていって 「んっ…んん!!」 息が苦しくてルルさんの肩を必死に叩くと、名残惜しそうに唇が離された 「…!!ルルさん!!」 「なんだ?」 「っ!なんでもありません!!」 「そうか?」 …!! ニヤリと笑みを浮かべたルルさんは、だったら良いな?と俺の頬に手を添える あ、わわっ!! 近づいてきた顔に慌てて目を閉じる あと数センチで唇が重なる時、到着を告げるアラームが響いた 「…タイムアウトか」 何事も無かったかのように離れる余裕が悔しくて睨み付けると、ルルさんは意地悪く笑ってちゅっと唇に口付けた 「…!ルルさん!!」 恥ずかしさを隠すように睨んでみても、当の本人は相変わらず意地悪い笑みを浮かべている その余裕が、悔しい。 俺ばっかりドキドキしてるみたいじゃんか! コックピットが開かれると同時に聞いたことのない声が響いた 「お帰りなさい!兄さん!」 「だだいまロロ。咲世子、留守中に何か変わったことは…」 ロロ? もしかして、以前言われた偽物の弟のことだろうか。 姿を見たくて顔を出すと、茶色い髪の男性と懐かしい人の姿があった 「咲世子さん!」 「沢田様!?」 多分初めて見るあの人が、ルルさんが言ってた偽物の弟なんだろう だけど俺には、1年ぶりに会う咲世子さんのほうが重要だった 「お久しぶりです咲世子さん!!」 「沢田様、お元気そうで…」 「沢田綱吉…!?」 再会が嬉しくて思わず駆け寄ろうとしたが、聞きなれない声がそれを留めた ロロと、ルルさんがそう呼んでいた人が俺を酷く目を丸くして見詰めていたから 「初めまして、沢田綱吉です。黒の騎士団ではゼロの補佐を…」 「知ってます!兄さんの恋人だった人でしょ!!」 「ロロ、だったじゃない。現在進行形で恋人だ」 「本気で言ってるの兄さん!?」 嫌悪感を隠しもせず言うロロに、嫌な予感が胸を掠める まさか、この人もルルさんを… 心臓が嫌な音を立てる この人は俺が離れていた間、ずっとルルさんと一緒に… 「ツナ、指令室を案内するから…ツナ?」 「あ、はい!」 「はいじゃないだろ?」 「えっと…うん。」 そう言うとルルさんは嬉しそうに笑った それだけで、今までの気持ちが嘘のように幸せな気分になる 「…兄さん!!」 けどそんな気分をぶち壊すように、ロロがルルさんの腕を引っ張った 「沢田綱吉に指令室を案内するんでしょ!」 「ああ。ツナ、こっち…」 「僕が案内するよ!兄さんより詳しいからね!!」 「…ルルさん!」 負けじと俺も、ロロとは反対側の腕を引っ張る 「置いてかないで下さい」 「当たり前だろ?ロロ、ツナは初めてなんだから余り早く歩いたら…」 「ごめんなさい兄さん。噂に名高いボンゴレ10代目ならこれくらいついてこられると思って」 「どうせ俺は何をやってもダメダメなダメツナですから!」 ルルさんを挟んでロロと睨み合う バチバチッという効果音がピッタリの状況を打ち破ったのは咲世子さんだった 「皆さん、もうつきましたよ?」 振りり返った先には、幾重ものセキュリティを解除しないと入れないであろう頑丈な扉があった 「ツナの生体認証を登録するから」 「兄さん!そんなに長い間沢田綱吉を滞在させる気なの!?」 「ああ。少なくとも俺が学園にいる間はな」 その言葉にほっとすると同時に、少しの優越感。 ルルさんが学園にいるということは、ロロと一緒だということ。 その間、俺もここに置いてもらえるんだ。 俺はここでも、黒の騎士団でも一緒に居られる。 ロロより長い時間をルルさんと一緒に過ごせるんだ。 「ツナ、まずは指紋を…」 「申し上げにくいのですがルルーシュ様。ご登校のお時間です」 え、と振り返った先には咲世子さんが2人分の鞄を持って待機していた おそらく鞄の中には今日の授業の準備が完璧にされているんだろう 「そうだよ兄さん!早く行かないと!!」 「今日の授業は咲世子に…」 「咲世子に任せておいたら不安だよ!いいから早く行こう!!」 急かす様にロロがルルさんをひっぱる 「待っ…」 慌てて俺も手を伸ばすけど、それはルルさんに届かず空を切る 「沢田様?」 咲世子さんが不思議そうに俺を呼んだ 「…後は咲世子さんに教えてもらいますから、ルルさんは授業に行ってください」 「…ツナ?」 「沢田綱吉もああ言ってるし、行こう!兄さん!!」 ロロは一瞬目を丸くしたが、コレはチャンスだとばかにりルルさんをひっぱって出て行った 「よろしかったのですか?」 「いいんです。」 これでいいんだ。ここは、ルルさんにとって大切な場所だから。 「ではルルーシュ様が授業を受けられている間に、生体認証と基地の案内をさせていただきますね」 「おねがいします」 ここで過ごす時間を、俺のせいで無駄になんてして欲しくない。 基地は思ってたよりずっと広かった。 というか、広すぎた。一体どこにこんなスペースがあったんだと言うくらいすごかった。 もしかしてミルフィオーレのメローネ基地くらいあったんじゃないだろうか。 一通り案内が終わったところで、咲世子さんは報告書の最終チェックをすると言って基地内に宛がわれた自室へと向かった。 邪魔しちゃ悪いから1人でその辺を見て回ったところまでは良かったはずだ。 なのに、どうして… 「ここ、どこだろう…」 近くをぶらぶらしてただけで迷うかな俺!? いやだってこんな似たような壁ばっかだし!ルルさんの仲間以外はここに来ないらしいから誰かと鉢合わせても大丈夫だって言ってたけどコレはまずいよな。 最悪もう元の場所に戻れないでこのまま餓死とか…それって学校の怪談とかになるのかな。アッシュフォード学園七不思議とかにノミネートされたりして… 「って、そんなこと言ってる場合じゃ…」 ルルさんが来るになんとか司令室に戻らないと… 「えーと、俺の勘だと多分こっち…」 「誰かいるのか?」 ぶつぶつ言いながら角を曲がろうとした時、突然自分ではない誰かの声が響いた 低い、聞いたことの無い女性の声。 「な、沢田綱吉だと!?」 女性は信じられないものを見たというように俺を凝視している。 「えっと、ルー…ゼ…あー、えっと…」 ルルさんか、ゼロか。どちらの名前を言えば良いのかわからなくて迷う 「…沢田綱吉です。咲世子さんに基地を案内してもらってたんですけど迷子になっちゃって…えっと、貴方は?」 「…ヴィレッタ・ヌウ。ルルーシュが連れてきたのか?」 「はい。俺のこと知ってるんですか?」 そういえば、ロロも俺のことを知っているようだった。 「詳しいことはルルーシュにでも聞け。司令室はこっちだ。アイツもそのうち来るはずだ。」 ヴィレッタという女性が向かったのは、さっき俺が行こうとしてたのと逆の方。 俺の超直感って、ほんとにあるのだろうか… 「ここだ。」 部屋の中にはまだ誰もいないようだった 「ありがとうございます。助かりました。」 「いや…」 ヴィレッタさんは少し驚いたように俺を見る 「なんですか?」 「…同じボスでも、アイツとは随分タイプが違うようだな。」 「ボスって…ルルさんですか?」 「アイツは黒の騎士団の司令塔だろう」 そう言われて少し驚いた 基地にいるくらいだから、この人も仲間だとはわかっていたけれど。 ルルさんが正体を、自分がゼロだと明かしてるのは、やっぱり俺にとっては驚きだった。 「ルルさんは頭も良いし、かっこいいし、優しいし。対する俺は何をやってもダメ人間ですから」 「…そこまで自分を卑下する人間も珍しいと思うがな」 「そうですか?」 「ああ。少しはルルーシュにも見習わせたいくらいだ」 一瞬だけヴィレッタさんが笑った その笑顔が、何故か頭に引っかかる どこかで見たこと有るような、そんな感じが… 会うのは今が初めてなはずなのに…どうして… 「どうかしたか?」 「うーん…」 会うのは初めてでも、見たことはあった、とか?でもどこで?テレビとかじゃない気がするしなぁ… 「沢田?」 名前を呼ばれて我に返る。 「あ、すみませ…」 ふと、ヴィレッタさんの持っている資料が目に入った この学園の制服を着た2人のナイトオブラウンズとKMF KMF…? 「あ!!」 「な、なんだ?」 そうだ!格納庫!!昔、格納庫でヴィレッタさんを見た気がする。確かあれは、扇さんの携帯の待ちうけで…あれ?けど、名前は確か… 「千草さん…?」 「っ!貴様っ!どうしてその名前を知っている!!」 ヴォレッタさんが驚いて立ち上がる。資料が床に滑り落ちた 「昔、扇さんが携帯の待ち受けを嬉しそうに見てて…焦って隠してたんですけど、名前を聞いたら千草って…」 名前を覚えていたのは千種と同じだったからだ。 「待ちうけ!?扇要のヤツ、何を考えて…!!」 ヴィレッタさんが耳まで真っ赤になった。 それが怒りからか照れからかはわからないけど、多分後者だと思う。 「えっと、千草さんって呼んだほうが良いですか?それとも…」 「そのことは忘れろ!私はヴィレッタだ!!」 「わかりました」 千草というのは扇さんだけの呼び方みたいだ。 「…誰にも言うな。いいな。私とあの男は関係ない。」 「…ブラックッリベリオンの後、会ってないんですか?」 ヴィレッタさんは答えない。それが、答え。 ブラック・リベリオンで扇さんを含める黒の騎士団の殆どの人たちがブリタニアに捕らえられてしまった。 きっとヴィレッタさんはそのとき逃げ切って。扇さんを助けられなかったことに負い目を感じてる…? 携帯を取り出して、アドレス帳を開く 電話先は勿論、副指令。 「おい。誰に電話をしている?」 「大丈夫です。俺が…」 「おい!誰にかけている!携帯をよこせ!!」 「うわ!?」 後ろから腕をつかまれる 思ったより凄い力…!!振りほどけない!? 「電話をよこせ!!」 とうとう羽交い絞めの様な体制になり後ろに引っ張られる 「え!?ちょ!?」 不安定になった身体は重力に従い…ヴィレッタさんの方へと倒れこむ 背中に、柔らかな感触を感じた これって…!! 「は、離してくださっ…!!」 「お前が電話を離すのが先だ!!」 「そんなこと言ってる場合じゃー!!」 『…どうした沢田?なにかあったのか?カレン救出の作戦は…』 「っ…!!」 携帯が繋がったらしい。扇さんの声が聞こえ、一瞬ヴィレッタさんの動きが止まった 今がチャンスと起き上がろうとした時、ヴィレッタさんが携帯を奪い取った 「あっ!!」 通話が切られたばかりか、次の瞬間携帯は真っ二つになっていた 「俺の、携帯…」 「沢田綱吉、よくも勝手な真似を…」 ユラリと立ち上がったヴィレッタさんの後ろには、黒いオーラが漂っている 今なら、リングに火を灯せそうなくらいに。 ヴィレッタさんの属性は嵐かな!! 「えっと、すみませ…」 「言ってなかったが、私は体育教師をしていてな。体罰にならないギリギリの補習は得意なんだ」 そう言ったヴィレッタ先生の目は、笑っていなかった 「俺、ルルさんのこと迎えに…」 「まだ5限目がおわるまで1時間もある。たっぷり、補習と行こうじゃないか、沢田綱吉…?」 「ヒィ!ちょ、補習って俺もうこの学園の生徒じゃないんですけど!?」 「元生徒の教育もしっかり行うのが教職者というものだと思わないか?」 「そ、そんなー!!」 その日、俺は誓った。もう二度と馬に蹴られるようなことはしないと。 でなければ、馬に蹴られるよりももっと、悲惨な目にあうということがわかったから。 「…授業に出ている間に、随分ヴィレッタと仲良くなったようだな?」 「ル、ルルさん…!!」 「この俺を嫉妬させたんだ。責任はとってもらう。」 「…え?」 「ロロ、今日は部屋に入るなよ。お前にはまだ早い」 「兄さん!?」 「ちょ、あの!俺、ロロと同い年…」 「さあ、部屋に戻ろうか。ツナ?」 後ろから肩をつかまれる。力が入ったそれは痛くて、ルルさんの顔を見る。 その目は、さっきのヴィレッタさんと同じで笑っていなかった 「何度も電話したのに、気づかないほどヴィレッタと取り込み中とはな…」 「ルルさん、あの、ごか…」 「言い訳は聞いてやるさ。ベットの上でゆっくりとな。」 |