綺麗に広がる漆黒の髪に、吸い込まれそうな紫の瞳
優雅な振る舞いは異国の王子様のようで、誰もが見とれてしまうのに

「どうしました?デーチモ」

デザートを持ってきた執事に向かって吐息をついた
顔も良い。料理も完璧。掃除洗濯も出来て運動神経を覗けばすべてパーフェクト。
にこりともしないのがたまにキズだけど、それもこの綺麗な顔ではマイナスになどなりはしない。
彼が王子ならば良家の淑女がこぞって婚約者に名乗り出たことだろう


『彼が』王子ならば。


「なんで俺が王子様…?」

ついこの間まで一般市民だったのに。
ある日突然黒服の男達に拉致され、突然「貴方はお王家の血を引く最後の生き残りなんです」と言われた時からこの悪夢は始まった
俺がこの国の、第10代目ボンゴレ王国次期国王だなんて、信じられるはずも無い。

「貴方はボンゴレの血を引く唯一無二のお方ですから」

紅茶を入れながら執事―ルルーシュは言う

「…あのさ、その喋り方やめてくれない?」
「大変失礼いたしました。貴方様はこの国で最も高貴であらせられるボンゴレの血族であらせられますゆえ…」
「ちょ!逆逆!もっとくだけて話してっていってるんだけど!!」

ルルーシュは思い切り眉を寄せる

「私はそのような行為を許される立場では有りません」
「いや、俺こそこんなことしてもらう立場じゃないっていうか…急にこんなことになっても困るというか…」

今まで尊敬語はおろか、敬語も使われたこと無かったのに、今では廊下を歩くだけで跪かれる。
慣れろというほうが無理だ。
うちは父さんが早くに亡くなったから、一般市民の中でも貧しい暮らしを送っていたというのに。
…その父さんが、いなくなったといわれていた第一王子だったらしいんだけど。

「では慣れてください」
「…ルルーシュは俺付きの執事だろ。四六時中そんな喋り方でべったりされると、疲れるんだけど」
「そう申されましても困ります。」
「じゃあさ、二人っきりのときだけで良いから。ね?」
「人前でも強要するおつもりだったのですか?恐れながら、デーチモはご自分のお立場を今一度理解なされ…」

くどくどと長いお説教が始まる
なんだよ…
先日見かけた光景を思い出して、なんだか胸がもやもやしてきた

「スザクとは普通に喋ってたのに…」
「ですから王家の者として節度あ…スザク?」

聞かなくてもわかる。
どうしてそこでスザクが出てくるんですか?って顔してる。

「女の子も一緒に…楽しそうに喋ってたじゃん」

やわらかな茶色の髪をした車椅子の女の子。
もしかしてあの女の子はルルーシュの彼女かもしれない。
いや、もしかしたら許婚かも。執事は、貴族の長男しかなれない。
だからルルーシュに婚約者がいても、なんら不自然ではないのだ。

「…見ていたんですか」
「あの庭、人通らないし死角になってるけど俺の部屋からは見えるんだよ」

手入れもされて無いし、他の場所に比べたら綺麗とは言いがたいけれど、逆にその景色が好きで、見ていると安心した

「…その時間、デーチモはピアノのレッスンをされているはずですが」
「先生が倒れたんだよ」
「……」
「う、嘘じゃないからな!ほんとに骸が奇声上げて倒れたんだよ!」

お会いできて嬉しいですとか、自分がお教えするなんて身に余る光栄ですって言って!!
あの感激っぷりは怖かった。最後は手を握って倒れたから、怖くなって医者のシャマルじゃなくて警備の雲雀さんを呼んだんだけど…
そういえばあれから骸見ないな。ピアノの教師は獄寺君に替わったし。

「…そんな報告は受けてませんよ。もしかして、雲雀恭弥が言っていた嫌味はこのことですか」
「え、雲雀さんが?」
「教師もろくに選べないの君は、と。……俺が選んだのではないというのに

それはとても小さな声で、普通なら聞き取れないほどの呟きだったけど、俺はしっかり聞いてしまった。

「ルルーシュが俺って言った!!」

しかも、普通の口調で!!

嬉しくてそう叫ぶと、ルルーシュはしまったというように目を見開いた

「…お聞き間違いでしょう」

「誤魔化したって無駄だよ。しっかり聞いたんだから。俺が選んだのではないというの」
「おいやめろ!声が大きい!!誰かに聞かれたら不敬罪として殺され…」

あ、と思ったときには遅かった
ルルーシュがやってしまったという顔でその場に崩れ落ちる

「ルルーシュ。俺のお願い、聞いてくれるよね?」
「…できれば俺のお願いも聞いていただきたいのですが…」
「2人きりの時は言葉を崩すって約束してくれるなら、いいよ」

にっこりと微笑むと、ルルーシュは脱力した。
うわぁ、こんなルルーシュ見たこと無い。

「ルルーシュ。なんか喋ってよ」
「………随分と曖昧な注文だな」
「わー!すごい!新鮮!!」

ココに来てからというもの、こういう喋り方してくれるの雲雀さんだけだもんなぁ。雲雀さんは話しかけても無視されるのがほとんどだし。

「…何故こんなことで喜ぶ。」
「いや〜、俺根っからの一般市民なんで謙譲語とか尊敬語とか聞いてるだけでむず痒くなるんだよね…」

ルルーシュが呆れたようにため息をつく
おお!これも新鮮!!

「…デーチモ。貴方は王となるお方です。そんなことでこれからどうするつもり…」

「なに言葉戻してんだよ。」

低い声で睨みつければ驚いたようにこっちを見る

「なっ、なんだよ」
「随分といい性格をしてるようだな」
「何が?ああそうだ、この時間はツナって呼んでね。今までデーチモとか言われて誰それ?って感じだったし!」
「デーチモは10代目という意味で…」

「いいから呼べ」

「お前が王となったあとのこの国が心配だっ…」
「やだな。それを教育するのがルルーシュの仕事でしょ?」

ルルーシュはため息をつくと、長い手を差し出した

「…いいだろう。付き合ってやる。」
「急にやる気だね?どうしたの?」

まあそのほうが俺としては嬉しいけど。差し出された手を握りながら、聞く

「お前を完璧な王に仕立て上げて、この腐った国を変えるのも面白そうだ。…元々そのつもりだったしな」
「だから執事なんかやってんの?でも俺、完璧な王とか無理だよ。そもそも王様になるつもりないし。」
「それは教育しがいがあるな。面白くなりそうだ。」

予想外の言葉に、今度は俺が驚かされる。


―ああ、楽しくなりそうだ