怪我が治って久しぶりに顔を出したレジスタンスは、名前も、アジトも、リーダーも、俺の知っているものとは変わっていた。
目の前にいるのは、病院のブラウン管越しに何度もみた相手で。
本当にゼロが仲間になって、黒の騎士団を結成したんだ!
そんな大事なときに一緒に居られなかったことが悔しい。
だけど、考えても仕方ない。これから挽回するしかないんだ。
あの人なら、きっとそう言うだろうから。

「は、はじめまして。沢田綱吉です!!」

気を取り直して、ゼロに挨拶をする。第一印象は大事だ!
仮面に見つめられ思わず頭を下げる
ていうか、本当にこの姿なんだ
近くで見るとかなり変…じゃなくて迫力あるよなあ。

「ツナ…?」
「あっ、はい。みんなそう呼ぶのでゼロもツナって呼んでください!」

いきなり愛称で呼ばれて驚いたが、よく考えれば多分カレン達から「沢田ツナを紹介する」とでも聞いてたんだろう
いくらツナで定着してるからって沢田ツナと紹介するのは酷いと思う。うん。

「あ、ああ…そうだな。では、そう呼ばせてもらうとしよう」

明らかに動揺した声で、ゼロは言う
なんだか思っていたイメージと違った
ゼロはもっと偉そうで、「ファーッファッファ」とか言ってるイメージだったけど、話してみると普通の人じゃないか。
よかった。安心した。

「ゼロ。ツナは病み上がりなので今日の作戦は後方支援に回そうと思うのですが」
「え?あ…ああ…そう、だな…」
「!大丈夫です!もう充分休みましたし、体調も万全です!!」

カレンの言葉に焦って反論する。
俺が入院してる間もみんな命を懸けて戦ってたのに、また俺だけ楽な仕事をするなんて耐えられなかった。
だけど、

「駄目だ!!」


突然ゼロが声を荒げた

カレンも驚いたようで、仮面越しにゼロをみつめる

「…あ、いや…すまない。だが、もう今のメンバーで作戦を立ててしまったんだ。
 君が入るなら作戦を練りなす必要があるが、生憎とその時間は無い。悪いが、今日はアジトで皆のサポートをして欲しい。」
「あ…そうですよね…すみません…」

駄目だ、俺。大失敗だ。
突然入ったって迷惑なだけに決まってるのに。
自分の駄目さに嫌気がさして、泣きたくなった。

「だが、サポートも大切な仕事だ。頼まれてくれるか?」
「…はいっ」

ああ、もう最悪だ。
ゼロに気を使わせてしまった。
どんな仕事でも、大切で、気を抜いちゃいけないことくらいわかってたはずなのに。
駄目だ、駄目だ。しっかりしなければ。

「そうだツナ、アンタの制服できてるから着替えてきなさいよ」
「制服…?」
「これだ」

渡された服は黒が基調のスタイリッシュなものだった。そういえば玉城もこんな服を着てた気がする
新しい服なんて、久しぶり…

「着替えてきます!」

さすがにカレンの前で着替えるわけにもいかず、トイレで汚れたシャツを脱ぐ。
一着しかなくてなかなか洗濯できなかったけど、これからは制服着てる間に洗えるかも!
うきうきと制服に袖を通すも…段々と笑顔は消えていった。




「……」
出て行きたくないけど、そんなわけにもいかない。
誰かトイレ待ってるかもしれないし。
仕方なく扉を開けると、待ってましたとばかりにみんなが集まっていた。
「お、出てきたぞ!おいツナ!制服どうだっ…」
玉城が一番に乗り出してきて言葉を失う
「………」
無言で数秒見詰めあった後、「ぶはははは!!!」と玉城が笑い出した
「おまっ、小さいにも程があるだろ!!」
ひーひーと喉を震わせながら笑い続ける玉城に最早殺意が沸いてくる
「ちょっと見えないわよ玉城!私にも見せ…」
玉城を押しのけてカレンや井上さんが出てくる
二人とも数秒固まった後、やっぱり同じように笑い出した

「そんなに笑わなくてもいいだろ!!」
「だってアンタそれ、だぼだぼ…!!」
お腹を抱えて笑うカレンに蹴りを入れると、お返しに数倍勢いのあるキックをおみまいされた
「ゲホッ、ゲホッ…」
「何アンタまで笑ってんのよ張本人が」
「笑ってない!!」

「おい、何の騒ぎ…」
とうとうゼロまで現れて、俺の姿をみて固まった

「…ゼロは笑いませんよね?」
少し涙目になって言うと、ゼロがカツカツと音を立てて此方まで来る
「ひい!?」
もしかして怒られる!?
騒ぎすぎたことで気分を害したのかもしれない
これから大事な作戦だっていうのにはしゃぎすぎた!?
「あの、ごねんなさ…」
言いかけた時、視界が赤で染まった
「ぶふぁ!?」
勢い良く何かで身体を覆われる
すぐにゼロのマントだと気がついた
「あの、ゼロ?」
「元の服に着替えろ!」
「え?でも…」
「サイズの合うものを次までに用意しておく!そんな格好で出歩くな!」
「す、すみません!直ぐに着替えます!!」

こんなみっともない姿じゃ、怒られて当然だ
最悪だ、さっきからゼロに怒られてばかりだ。
こんなんじゃ、呆れられてしまう。
「あの、マントを…」
トイレに持ち込むのは申し訳なくて返そうとするも「いいから巻いておけ!」という一言でかなわなくなる
「…はい」
駄目だ、泣くな。とにかく、早く着替えなければ。
さっきまで着てた服を持ってトイレの戸を開けようとした。
「…あれ?」
ドアノブを捻る音がするのに扉が開かない
ガチャガチャともう一度捻ると、扉の中から「すまん、使用中だ…」という声が聞こえた
扇さんだ
「悪い、時間がかかる…」
元もとここはトイレなんだから仕方がない。
トレーラーだからトイレが一つしかないのも仕方がない
だけど今の俺にとっては死刑宣告だ
早く着替えないと!!
「カレン、井上さん。着替えるからこっち見ないで!」
「はいはい。」
「じゃあ後ろ向いてるか…」
「おい!何をしている!!」

女性2人に断ったところで着替えようとすると、ゼロが凄い勢いでやってくる
「ひぃ!き、着替えようと思いまして!」
「こんな場所で着替えるな!」
「でもトイレは今使用中で時間かかるみたいでして!」
「チッ…来い!」
腕をつかまれて2階へと連れて行かれる
もうどうしたらいいのかわからなかった
ゼロは明らかに怒ってる
最悪だ
今日はじめてあってから何回怒らせたかわからない
普段からこうなのかと思ったけど、みんなの意外そうな態度を見るとそうじゃないみたいだし。
つまりそれは、俺のせいでこんな苛々させているということ

「っ…」
視界が歪む
嫌われたくないのに。ゼロは、俺の憧れなのに。

ゼロは、クロヴィスを。ルルーシュとナナリーを棄てた、ブリタニア皇族を討って。
二人の親友のスザクさんを助けてくれた人で。
俺もスザクさんとは、会ったことは無いけど、電話で話したことがあった。
遙か昔、まだ日本が日本だった頃に。
ルルーシュとナナリーが人質として日本に送られた時。会いたくても会えなくて。電話さえも取り次いでもらえなくて。
だけど、彼が出たときだけは、こっそりと二人の様子を教えてくれた。
だからどうしても助けたかった。
でも俺は入院していて、動くことも出来なくて。何も出来ない自分が悔しくて。
作戦に参加することは出来なかったけれど、テレビでずっとゼロを見ていた
俺にとってゼロは、誰よりも英雄だった
だから、なのに、俺は…

扉のしまる音を、どこか遠くで聞いた気がした
「この部屋を貸すから、ここで着替え…」
「ひっく…ぅ…」
「なっ!?お、おい!何故泣いている!!」
「ごめんなさい…怒らせるつもりじゃ…なかっ…」
嫌だ、泣きたくないのに止まらない
「何故そうなる!?俺は怒ってない!」
「俺、頑張りますから…だから、嫌わないで…」

「俺がお前を嫌いになるはずがないだろう!!」

息が止まるかと思った

「…悪かった。俺の態度がお前を傷つけたのなら謝る。怒ってないし、嫌ってもいない。ただ…お前の肌を見られるのが、嫌だっただけだ」
ゼロは照れた様に視線を逸らす
言葉の意味が段々と脳内に浸透してきて、一気に顔が熱くなった

「よか、った…」

つまり、ゼロは、俺がところ構わず着替えるからはしたないと思っただけなのだ
それも女性の前でしようとしていたのだから焦って当然だ
それとも、もしかしたらゼロは女性なのかもしれない
…いや、さすがにそれはないか。

「わかったら、着替えてくれ。目のやり場に困る」
「はい。」

ゼロに嫌われたわけじゃない。そう思うと心が軽くなった。
「俺は後ろを向いているから早くしろ」
「はい。急いで着替えます!」
ああ、そうだ、その前に…
「ゼロ、マントをお返しします」
「ああ、そうだ…な…」
マントを受け取る為に振り向いたゼロは、だぼだぼの服を着た俺をしっかり見てしまい、ひったくるようにマントを奪って後ろを向いた
多分男同士なんだから照れることないのに。って、照れてるんじゃなくてだらしない姿を見たくないだけか。


着替えが終わったことを告げると、ようやくゼロが振り返った
「…いつもその服を着ているのか?」
「あ…汚いですよね。すみません。これ一着しかもってないからなかなか洗えなくて…」
「なかなかって、洗ってるときはどうしているんだ?」
「夏はそのままで、冬はよっぽどのことがない限り洗わないか毛布に包まるか…」
「………そうか」

「…」
「…」
「えっと…それじゃあ俺、下に戻ります。部屋借りちゃってすみませんでした」
沈黙が気まずくて部屋を出ようとする
「………ツナ。」
「はい?」
「どうしてお前は、レジスタンスに入ったんだ?」
思ってもない質問だった。
「大切な人がいたんです。でも、ブリタニアに殺されて…」
「…そうか。変なことを聞いてすまなかった。」
「いえ。」
失礼しますと断って部屋を出た。
「…俺がここに居る理由、か。」
大切な人のことを思い出す
実の父に棄てられ、道具として利用され、殺された人達
「…いつか、きっと」


二人の仇を、撃ちたいんだ。