年の瀬の迫った12月末日―
長男であり、一家の大黒柱であるルルーシュ・ランペルージは、家族で新年を迎えるための準備をしていた

「兄さん、もういいかな?」
「待てロロ。それはもう少し味が染みてから…」
「お兄様、重箱これでよろしいですか?」
「ああ、ありがとうナナリー」

隣で料理を手伝うロロ
車いすに乗りながらも、自分の出来ることを精一杯手伝うナナリー。

ああ、なんて幸せなんだろうと、思っていた時だった

インターフォンが鳴り来客を告げる

「私が出ますね」
「いや、変な奴だったら危険だ。俺が出るから、ナナリーは鍋を見ててくれないか?」
「心配しすぎですよ、お兄様。」

ナナリーはそう言うと、「はい」と応える。
液晶画面に映ったのは思ってもみない人物だった

「沢田綱吉です。忙しい時にすみません…」
「ツナさん?」

「なっ!?」
「…沢田綱吉!?」

どうして、ツナが、突然うちに…!?
驚きの余り俺は、鍋が沸騰していることにしばらく気付けなかった



「どうぞ。」
「ありがとう、ナナリー。」

年の瀬の挨拶に来ただけだからと帰ろうとしたツナをナナリーが引き止めてくれたおかげで、なんとか家に上がってもらうことができた。
冬休みに入り、会う機会がめっきり減った…というか無くなった為、久しぶりの対面に柄にもなく緊張してしまう。

「ゆっくりしていってくれ。今お茶…」
「噴きこぼれてるよ兄さん。あと、こっちはどうすればいいの?」

ポットを持ったところでロロに話しかけられる。
見れば、言われたとおり鍋がすごい状態になっていた。失態だ!!こんな所をツナにみられるとは…!!

「ああ、それはもう大丈夫だから皿に取り分けて…崩れやすいから俺がやろう。そっちの鍋を見ていてくれないか?」
「わかった。」

「すまないツナ。すぐお茶…」
「兄さん。これどうなるまで見てればいいの?」
「え?ああそれはニンジンが柔らかくなったら火を弱めるから教えてくれ」
「柔らかくってどうやって調べるんだっけ?」
「それなら菜箸で刺してみるといい。菜箸は確かこのあたりに置いたはずだから…」

「兄さん。なんだかジャガイモが小さくなってきちゃったよ?」
「それはやりすぎだ。ひとまず火を止めて…」

「…スミマセン、なんだか忙しい時に来ちゃったみたいで…」
「私が無理やり引き止めてしまったんですから、気にしないでください。実はあまり手伝えることがなくて退屈だったんです。よかったら話し相手になってもらえませんか?」
「俺でよければ喜んで」
「ありがとうございます。今お茶をお持ちしますね。」
「手伝うよナナリー。」

お茶はナナリーが入れてくれたようだな…
そうだ、昨日焼いたクッキーがあったからそれを出そう
今日の夕飯に誘ってもいいだろうか…友達を夕飯に誘うのは変か?いや、そのくらい普通か?
駄目だ、どうなのか見当がつかない…!!

「兄さん。黒豆はどうすればいいの?」
「…あ、ああ。まず砂糖と一緒に煮込んで…」

「この紅茶すっごく美味しいよナナリー!」
「本当ですか?」
「うん。俺がいつも飲んでるのと全然違う!」
「専門店で、オリジナルにブレンドしていただいたものなんです。よかったら、今度一緒に買いに行きませんか?」
「え?いいの?うん、俺も行ってみたい!」

…!?
デートだと!?ツナとナナリーが!?
いや、一緒に買い物に行くだけだ深い意味はないはずだそうだただそれだけ

「…あの2人、お似合いだと思わない?兄さん」

鋭い音を立てて、何か矢のようなものが体中に突き刺さった

「そうだ、さっき夕飯を作りすぎてしまったんです。よかったら食べていってもらえませんか?」
「え?でもそんな迷惑じゃ…」
「そんなことないです。私も1品作ったので、感想を聞かせていただけると嬉しいです。」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「ありがとうございます」

あ、あんな積極的なナナリーは初めてだ…
まさか、本当にナナリーはツナのことを…?
だとすれば、俺は…

愛する妹の幸せのためだ。全力で応援するべきだ。
相手はツナだ。誰よりも信頼できる。安心してナナリーを任せられる。

…だが、俺は、俺も、ツナのことを………


「…様。お兄様!!」
「…!?なんだい、ナナリー?」
「…もう、聞いてらっしゃらなかったのですか?」
「ああ、ごめんちょっと考え事を…」
「ツナさん、そろそろ帰るそうですよ」

…!?

「すみません、そろそろ帰らないとちび達が騒いじゃってるらしくて…」

ツナはいつの間にかコートに袖を通していた。
マフラーを巻き、手袋をはめる。本当に帰る準備をしていた。

そんな、待ってくれ。せっかく来てくれたのに、まともに会話をした覚えがない。
もう外は暗い。夜道は危険だ。送って行こう。言っていいのか?ツナだって男なんだ。そんなこと言われて嬉しいはずもない。
男が男を送るなんて、変に思われるだけだろうか。だがツナは可愛い。もし変な男に襲われでもしたら…
特にパイナップル頭の変態やトンファーを振り回す男など…!!

「お兄様。送っていってさしあげたらどうですか?」
「…!!」
「え、いいよ。俺男だし、そんな…」
「もう夜も遅いですし、私が引き止めてしまったのですから…」
「ナナリーもああ言ってるし、送って行こう。」
「え?でも…」
「遠慮するな。来年の部活について、話したいこともあるから。」
「ちゃんと家まで送って差し上げてくださいね。お兄様。」
「ああ、わかったよ、ナナリー」

…ありがとう、ナナリー。

「僕も一緒に…!!」
「ロロは後片付けを手伝ってください。」
「頼んだぞ、ロロ」
「え…兄さんが、そういうなら…」
「ではツナさん、よいお年をお過ごしください」
「うん。ナナリーもよいお年を」
「ロロも。来年はもっと話したいな。」
「……」

にっこりと、ナナリーとツナが手を振りあって扉が閉まる。

「スミマセン、送ってもらちゃって…」
「いや、それよりも今日はありがとう。あんなに楽しそうなナナリーを見たのは久しぶりだ。」

本当に、幸せそうだった
…ロロの言うとおり、お似合いだったと思う。

「ああ、あれですか?ナナリーの好きな人の話をしてたんですよ」
「な!?好きな人、だと…!?」

ツナのことが好きなんじゃないのか!?

「はい。幼馴染で、とっても優しい人だって。」






―同時刻、ランペルージ家
「…ねえ、ナナリーって沢田綱吉のこと好きなの?」
「まさか。私はいつだって、お兄様の味方です」