忘れたことなんて無かった

いつもずっと、お前は俺の心の中で微笑んでいたんだ


標的2.5 夢ならば永遠に醒めないで


行く当ても無く、ただ空を見上げていた
どこまでも続く漆黒の空はまるで吸い込まれるようで、月と星だけが唯一光を放っている
全てを包み込む大空。
この暗闇も、月も、星も、地上に住まうものも全て。
空を見て想うのはたった1人。
「…ツナ」
空に手を伸ばしては、届かないことに苦笑する
―逢いたい
逢えるはずはないのにそれでも諦め切れなくて。
「逢いたい…」
そう呟いた時、身体が光に包まれた
「っ…!?」
強い光に目を閉じると突如感じる浮遊感
だがそれも一瞬で、気がついた時には硬いコンクリートの上に座っていた

「なんだ…?」
ざっと辺りを見渡す
さっきまでいた場所と違う。人工的な明るさに気づき目を向ければ、今では見なくなった種類の街灯。どこだここは?一体何が起こっている?
コードを受け継いでから普通では考えられないようなこともたくさんあったが、見知らぬ場所にワープしたというのは初めてだ。
「ぎゃっ!!」
近距離で叫び声がした。顔を見られてはまずい。悪逆皇帝の顔は世界に広がっていて、どれほど年月が経とうと忘れられることは無い。
だがフードに手をかけた瞬間、何も考えられなくなった

「あの…えーと…こ、こんばんは…」

「ツ…ナ…?」

逢いたくて
逢いたくて
恋焦がれた存在が、目の前にあった

「……とうとう幻覚まで見えてくるとはな…」

違う。これは現実じゃない。
ツナはもういないんだ。

幻覚のツナがしどろもどろに話しかけてくる。
そういえばこのツナはさっきから日本語を使っていた
日本語も話せると言えば、ほっとしたように俺を見て

瞳がぶつかる

「っ…」

まるで本当にそこにいるようで。

「お前は異世界から来たんだ」
どうやら俺は随分と都合のいい夢を見てるらしい
パラレルワールド?異世界から来た?ありえない。
もう1度、ツナと一緒にいられるなんて。そんなことあるはずが無いんだ。

「夢じゃねえ」
「信じられない」
「信じろ」
「無理だ」

埒の明かない言い合いが続く。
そんな話はどうだっていい。
今は夢でも幻覚でもいいから、触れたい―

ツナを呼べば、怪訝そうな顔をしながらも来てくれる
そっと手を伸ばせば、体温のある暖かい頬に触れた
この体温は、生きている証そのもので罪悪感が押し寄せる
本当に都合の良い夢だ
ツナが生きていて、俺のそばにいる。

「10代目を放しやがれ!!2倍ボム!!」
「え゛」

突然の怒鳴り声と共に無数のダイナマイトが降ってくる
「ひい!!!」
「ツナ!!」
ツナを抱き寄せて腕の中に閉じ込めた
そのまま地面に伏せ護るように抱きしめる
爆発音と共に背中に痛みが走った

「え…?」
ツナの声が響く
生きていることに酷く安堵した
今度こそ俺は、護れたのだろうか
「怪我はないか…?」
「俺より君は!?大丈夫なの!?」
「俺は平気だ…それよりツナは…」
「平気って、背中火傷してるじゃん!!」
「このくらい…」
早く病院に行かないとというツナは必死で、本当に俺のことを心配してくれている
そういうところは全然変わらない。
傷が治ったようでツナが信じられないように見ていた
だけどツナは、なんでもないことのように気にしなかった

―本当に、夢のようだった
永遠に醒めないで欲しいと願う
今目が醒めて現実に引き戻されたら、もうどうすればいいのかわからない

「お前名前は?」
「すみませんお待たせして!生徒会の人ですか?」
アルコバレーノの言葉に、遙か彼方の記憶がよみがえる
ツナと初めて交わした言葉。

「L.L.だ」
「えるつー?」

もうあの頃のように呼ばれることは無い
それでもいい。なんでもいいから、ただ傍に居たかった。