「クフフ、クフフ、クフフのフ〜」 「骸様、皆が骸様の美声に嫉妬の念を送っているので歌いながら歩くのはやめてください」 「おや、それは仕方が無いですね。」 機嫌よくクラブハウスへの道を歩いていた骸は千種の言葉に歌うのをやめた。 実際は『ボンゴレへの愛を歌った自作ソング』の異様さに視線を集めていたのだが、うまく丸め込まれた様である。 「骸しゃん、その別館ってのはどこにあるんれすか?」 「なんでも学園の端のほうだとか…ああ、あれじゃないですか?」 そう言って骸が指差したのは、いかにも廃墟といった感じの建物だった。 開校して数十年もたっていないこの学園には異質なものである。 「ほえー、良い感じびょん!」 「全くです。僕は嫌いじゃありませんよ。風情があって良いですね、クフフ…」 その後めでたく同好会として認められた「SOS団」は部室が割り当てられることとなった。 しかし本館のクラブハウスは空きが一部屋しかなく、骸率いる「SOS団」は別館に飛ばされたのである。 ルルーシュが部長である「スポーツ同好会」は本館で、自分達は別館ということに反発しなかったわけではないが 「別館にあったクラブは全て廃部になってるから何部屋でも使って良い」という会長の言葉に了承することとなった。 「好条件にも関わらずルルーシュ・ランペルージが本館を選んだ理由が判りかねますがね…」 (もしかして廃墟風の建物が怖いんですかね?だとしたら笑えますが…クフフフフ) そんなことを考えながらドアノブに手をかける。 どうやら別館の建物は作りも古風で、ドアも手で開けるタイプのようだ。 埃っぽい独特の空気に懐かしさを感じる。 「なんかヘルシーランドみたいびょん!」 「全くです、懐かしいですね…さて、まずはメインとする部屋を決めましょうか。」 昔に思いを馳せそうになるのを止めて、骸は周りを見回した。 造りは本館とそんなに違いがあるわけではなく、部屋がずらっと並んでいる。 「やはり出入り口に近いところが便利ですかね。」 一番最初のドアには、旧クラブのプレートが掛かったままだった。 書いてある文字は「七転八倒同好会」。 「どういう意味びょん?」 「…まあ、どんなクラブだったかは関係ありませんよ。ここはこれからSOS団になるんですから。」 そう言って扉を開けると、中には銃痕の後の様なものがあった。 「…銃撃戦でもあったんですかね?」 (まあそれなら一般人であるルルーシュ・ランペルージが近づきたくないという理由も判りますが…) そのまま足を踏み入れた瞬間、ピッという小さな音に何かを感じ取った骸は叫んだ 「伏せなさい!!」 刹那、頭上を何かが走り去ると同時に銃声が響く。 嫌々振り向けば、壁には先程より銃痕が増えており、床には水溜りが出来ていた。 「水撃銃ですね…しかし何故こんなものが?」 ボンゴレ10代目がこの学園に居るというのはトップシークレットであり、ごく一部の人間を除いて知るものは居ないはずだ。 それにこの別館をSOS団の部室として使うと決まったのは今さっき。彼を狙って付けたものとは考えづらい。 「七転八倒同好会…」 それまで静寂を保ってきたクロームが口を開いた。自然と全員の視線が彼女に集まる。 「これ、高さで発動するようになってるみたいだから…もしかしたら…」 「常にうつむいて歩け、というわけですか…」 成る程確かにクラブ名にあっている様に感じなくも無い。 「とにかくここはやめです。別な部屋を探しましょう。」 入ったときとは違い、骸の足取りは重かった。 「どうしてここにはまともなクラブが無いんですか!!」 あれから10以上の部屋を見て回ったところでとうとう骸が叫び声をあげた。 「SOS団」もまともなクラブとは言えないと突っ込む気力のある者はなく、むしろその言葉に賛同したいという気持ちが皆を支配していた。 「地雷同好会」といった名前からして怪しいクラブはともかく、「カエルを愛する会」がガマ油精製工場化していたことを考えると明らかに常軌を逸している。 ルルーシュが別館を嫌がったわけである。そんな怪しい巣窟に部室を作ろうとするわけが無い。 (分かってて僕達を追いやりましたねルルーシュ・ランペルージ…!!) 骸は怒りに燃えると、絶対に最高の部室を作ってやると次のドアに手をかけた。 掛かっているプレートは「土管クラブ」。 どうかドアを開けた瞬間に、頭から土管の山が降って来るなんてことありませんようにと思いながらノブを回すと、飛び込んできたのは思いもよらない光景だった。 「さあ〜、僕と〜、契約〜、しません〜か〜」 寮の廊下を歩く骸の足取りは軽かった。 少し前までの不機嫌さを全く感じさせない彼の手には1本のマイクが握られている。 「記憶〜、なくす〜、その前に〜」 マイクの柄には「土管クラブ」というシールが張ってあった。そう、ついさっきまで骸がいた場所である。 扉を開けた骸達の目に飛び込んできたのは、壁一面に飾ってあるマイクの山だった。 「土管クラブ」とは土管の中で歌い、その反響を利用して音痴を直そうというクラブだったのである。 変な仕掛けがあるわけでもなければ、防音効果がありカラオケセットも常備してある部屋を骸は気に入り、「SOS団」の部室に決定したのだ。 骸はその中でも一番良いマイクを持ち帰り、現在に至るのだった。 「クフフ〜、クフフ〜、クフフ〜のぉぉ!?」 ノリノリで自室のドアを開けた瞬間、空気を切る音と共に襲ってきたトンファーをギリギリのところでかわす。 目の前には、今にも襲い掛かってきそう雰囲気の雲雀が立ちふさがっていた。 「雲雀恭弥!何をするんですか!?」 「それはこっちの台詞なんだけど」 雲雀は何を今更とばかりに攻撃を続けてくる。 「ルール!忘れたんですか君は!!余程の事がない限り戦わないと約束したでしょう!!」 繰り出されるトンファーをかわしつつそう言えば、雲雀は鬼の様な形相で骸を睨み付けた。 「もう一つ、互いの領域を侵さないって言わなかったっけ?」 「言いましたけど、それがどうしたって言うんですか!」 僕は君の領域に踏み込んだ覚えはありませんけど。というか踏み込みたいとも思いませんという思いを込めた視線を送る。 「SOS団って何?」 雲雀の口から出てきた単語に驚いて一瞬動きが止まる。 その瞬間骸の腹部にトンファーがめり込んだ。 「ぐっ、は、話を聞きなさい雲雀恭弥…!」 「何で僕がその団員になってるの。そのふざけた頭で君が何を考えてるのか教えて欲しいんだけど」 そう言っている間も攻撃は止まらない。命の危険を感じた骸は応戦しようと服の中に手を突っ込んだ。 いつも入れている場所から三叉槍を取り出そうとする。 が、いくら探してもそれは見つからなかった。 (…!しまった!さっきボンゴレに没収されて…!) 「ちょっとタンマです!予備の武器出すから待ってください!!」 「待つわけ無いでしょ」 冷たい声が聞こえた―骸が分かったのはそれだけだった。 容赦なく頭部に与えられた攻撃は、骸の意識を奪うには十分なものだった。 ざわざわと、何か遠くで人が話す声が聞こえる。 ああ、今日こんな体験をするのは4度目ですねなどと考えながら、骸は朦朧とした意識の中で手を動かす。 震える手で書くのは「ヒバリ」の文字。最後の力を振り絞って犯人の名前だけでも残そうという考えである。 漢字は難しいからカタカナで…とか割と冷静に考えながら血で文字を書いていく。 バの濁点に差し掛かったところで、状況に不似合いの明るい声が響いた。 「うお!びっくりしたー。何?もうやってんの?SOS団。」 聞いたことのある声だ。いつもルルーシュ・ランペルージといる…リヴァルとかいう名前だっただろうか。 「でも活動は部室だけにしといたほうが良いんじゃない?ホントに死にそうと勘違いされるぞー、てかされてるって。」 (いや、ホントに死にそうなんですよ…それにSOS団のSOSはそういう意味じゃありません) 「リアルだよなー、その血糊とか特に!あと苦しそうな表情とか弱弱しい息遣いとか!」 (そりゃあ、意識も朦朧とするくらいですからね…ていうかなれなれしいですね君…) 「けどSOSって言うよりダイイングメッセージに見えなくも無いな。てかそれ何語?読めないんだけど」 そこで初めて骸は致命的失敗に気づいた (しまった!!日本語で書いたって枢木スザクくらいしか読めないじゃないですか!!) ツナ達には無視されるのがオチである。 一切の希望が絶たれた瞬間、とどめとばかりにドアが開き、部屋の主が踏み出した足が骸の頭にヒットし鈍い音を立てた。 「何、君まだ居たの?」 どうやらここは寮の廊下で、咬み殺された骸は部屋の美観を損なうという理由で廊下に捨てられたらしい。 「あ、ホントに死んじゃった…」 |