ボンゴレファミリー10代目、沢田綱吉。
イレヴンでありながらイタリアの国籍を持ち、ブリタニアと対等に渡り歩けるくらいの力を持っている男。
部下からの信頼も厚く、3大マフィアであるキャバッローネファミリーのボスと兄弟のように仲が良い。
彼の活躍により、2代目から対立していたトマゾファミリーと和解。
その強さと人望から、時期ボス就任は確実といわれている。

生徒会室から持ち出した資料を見てため息をついた。
どう考えてもこの人材を逃すことは出来ない。

沢田綱吉の価値は、その地位や背後関係だけではない。
イヴブンでありながら、ブリタニアと対等に渡り合える存在は日本人にとって光となるだろう。
この男を引き込めれば、多くの日本人の支持を得られるはずだ。

「あんなくだらないことにギアスを使うんじゃなかった…」
考えれば考えるほどあの時のことが悔やまれて頭を抱えた。
「くだらないというのは、オレンジのことか?」
「違う!」
スザクを助けるために使ったギアスを後悔するわけが無い。

「そういえばお前…六道骸とも契約をしたのが?」
「はぁ?誰だ?ろくどうなんとかと言うのは。」
「六道骸。パイナップル頭の変な男だ。」

あれから六道の行動には極力注意を払ってみていたが、沢田を追い掛け回している変態、ということしかつかめなかった。
肝心のギアスを使用している場面には出くわさない。本当に持っていないのか、うまく隠しているのか…

「俺と同じ、絶対遵守の力を持っている可能性がある。」
C.C.は目を丸くすると、「さあな」と答えた。

「私は契約など交わしてないが、その男がギアスを持っていないとは言い切れない。」
「何故だ?」
「さあ?」
「…お前はいつまでここに居るつもりだ?」
そう言っても返ってくるのは「さあな」という答えだけで、これ以上話していても無駄だと判断した俺は早々に会話を打ち切った。







STAGE 2  沢田綱吉






「沢田君、ちょっといいかな?」

1年の教室を訪れると、生徒会副会長という地位で顔が知れていることもあり生徒がざわざわと騒ぎ始める。
その中で唯一、別な騒ぎ方をする者が居た。

「テメェ、10代目になんの用だ!?」
「ちょっと、獄寺君!!」

獄寺隼人、自称沢田の右腕で忠犬とかいう男か…
コイツにはギアスが使える為、邪魔なら追い払うことも出来る。
だが後々のことを考えると、今そんな無駄打ちは避けたい。

外向きの笑顔を作ると、「急にすまない」と切り出した。

「実は沢田君の書類に不備が見つかったんだ。悪いんだけど生徒会室まで来てもらえないかな?」
「ふざけんな!10代目の書類に不備なんてあるわけねーだろうが!!」

確かに獄寺の言っていることは正しかった。俺が勝手に改ざんしてわざと空欄を作ったのだ。全ては、沢田をおびき寄せるために。

「そんなこと言われても、困るんだけど…というか、沢田君と話をさせてくれないか?」
「10代目に話があるなら俺を通してからにしろ」


…なんなんだコイツは。


主君を守ろうという姿勢は買うが、これじゃあ「この方はすごい地位にある人なんです」と言ってるようなものだ。
他の生徒がおかしく思うのも時間の問題だろう。

資料によると、彼らはマフィアであることを一般の生徒には隠している様だ。
それなのに呼び方からして10代目とは…。
思わずため息をつくと、それを別な意味で勘違いした沢田が焦って獄寺の後ろから出てきた。

「すみません!獄寺君、いいから下がって!!」
「しかし10代目!」
「いいから山本と先に寮帰ってて!いい!?これ、お願いだからね!!」
「ええ!?10代目を置いていけません!それに山本となんて…」
「い・い・ね?」
「…はい。」

なんなんだコイツ等は。
目の前で繰り広げられるコントの様なやり取りに、本当にこれがマフィアなのかと目を疑った。

くるっと沢田がこちらを向いたので、あわてて外向きの笑顔を作り直す。

「すみませんお待たせして!生徒会の人ですか?」
「副会長のルルーシュ・ランペルージだ。さっきも言ったとおり、君の書類に不備があって…生徒会室まで一緒に来てもらえると有難いんだが」
「わかりました。すみません、迷惑かけちゃって…」
「いや大丈夫だ。今からいいかな?」
「はい。」
「10代目!俺も一緒に行きます!!」
「はいはい、獄寺は俺と一緒に帰ろうなー。部屋で寿司握ってやっから」
まだコントをしている部下を、沢田は困ったように見て手を振っていた。






「もう学園には慣れた?」
「はい。寮生活って初めてなんですけど意外と面白いですね。」
それは良かったと、クラブハウスの鍵を開ける。
行くのは生徒会が使用している部屋ではなく、俺とナナリーが使用している自室。
「あれ?たしかここって今工事中なんじゃ…」
「ああ、生徒会室の前の廊下に馬で突っ込んできた奴が居てね。
 おかげで生徒会室の壁も少し壊れちゃって、仕方ないから重要な書類とかは別な部屋に置いてるんだ。俺達が向かってるのはそっちの方。」

ここだよ、と言って扉を開けると既に帰宅していたナナリーが出迎えた。

「お帰りなさい、お兄様。」
「ただいまナナリー。」
「…お兄様?」

驚いたように沢田が呟くと、「まあ、お友達がいらしてたんですか?」とナナリーが嬉しそうに声を弾ませる。
「初めまして。妹のナナリーです。」
「沢田綱吉です。えっと、俺はその…」
「友達だよ。沢田君、持ってくるついでに着替えるから、少しここで待ってて貰ってもいいかな?」
「あ、はい。わかりました。」
「では、少し話し相手になってもらってもかまいませんか?沢田さん。」
「え!?俺でよければ…」
「ありがとうございます。」

ナナリーの声を聞きながら自室へと足を進める。

マフィアとナナリーを会わせるというのはあまり気が進まなかった為、まだ学園から戻っていないならそれはそれでいいと思ってた。
だがナナリーは戻っていた。こうなったら仕方が無い。

彼の性格や思想、振舞い方、全てを計算したが、転地がひっくり返っても一般人であるナナリーに危害を及ぼすことは絶対に無い。
沢田は争いを極端に嫌う。少しでも血が流れないように、争いが起こらないようにと考えるタイプだと言うことは、ここ数日で調べ上げた。

ナナリーのクラスにも、奴の部下が一人いる。
もし、沢田がこの学園にいることで敵対マフィアなどが攻めてきた場合、足や目が不自由なナナリーは他の生徒より多くの危険が付きまとう。
同じクラスに奴の部下がいるということは、授業中に狙われる可能性はゼロじゃない。
「ボスと親しいクラスメイト」という関係にあれば、そいつ等が襲ってきたときも沢田の仲間が保護してくれるだろう。

逆に狙われる可能性が増える恐れもあるが、この学園に沢田たちがいることはわかっても、誰と親しくしていたかまで調べるのは容易では無いはずだ。
そんな怪しい行動をすれば、俺にも、きっと沢田の目にも留まるだろう。
そもそも学園内に9人もマフィアの幹部、またはそれに順ずる地位の奴らが存在するのだ。
何をしたって危険をゼロに出来はしない。ならば少しでも、安全性を上げるしかない。

だからこそナナリーと会わせて良いと判断した。
同じマフィアでも、無差別攻撃の雲雀と変態で未だ疑念の消えない六道にだけは会わせないと誓いながら。


部屋のドアを開けると、C.C.がベットでピザを食べていた。
…その金は、いつもどこから出ているのだろう。後で請求書が来るのが目に見えてため息をついた。

「ため息をつくと幸せが逃げるらしいぞ」
「うるさい。良いからお前、今日は部屋から出るなよ」
絶対にだ、そう言いながら服に袖を通す。

「ボンゴレとかいう小僧が来てる様だな。うまく仲間に出来そうか?」
「これからするさ。ゆっくり時間をかけてな」
「ゼロじゃなく、ルルーシュとしてどうやって?」
「考えがあるんだよ。」


まずは仲良くなり、打ち解けて会話が出来るようにする。
そしてさりげなくブリタニアについてどう思ってるか喋らせる。
沢田だって日本人なんだ。多からず少なからず、ブリタニアを恨んでいないはずは無い。
それを聞き出したら、その憎しみが強くなるよう誘導する。
ここまでくれば仲間になったも同然だ。うまくすれば向こうからゼロとコンタクトを取ってくるかもしれない。
そうでなくても、日本人である沢田にこちらから誘いをかけるのは不自然ではない。
今はまだ時期じゃない。
ゼロとしての功績はスザク救出しか挙がっていなければ、組織として機能できていない。
それに、沢田がブリタニアをどう思っているかよく知る必要がある。
全てはそれから、今からその下準備だ。
制服を壁にかけると、書類を手に取りダイニングへ向かった。










「ここをこうして…はい、出来たよ」
「わぁ!これは…お人形さんですか?」
「うん、やっこさんって言うんだ。昔、友達が教えてくれて…」

ダイニングでは、ナナリーと沢田が楽しそうに折り紙をしていた。
思っても見なかった光景に驚いて声を掛け損なっていると、沢田がこちらに気づいて顔を上げた。

「ランペロージ副会長!」
「ランペルージだ。ルルーシュで良いよ。言いにくいだろ。」
すみません、と沢田が言うとナナリーがおかしそうに笑った。

「お2人とも、お友達なのに今更そんなやり取りだなんて…」
「確かに変だな。俺も沢田君じゃなくて、綱吉って呼んでもいいかな?」
「はい。あ、ツナでいいです。今はそうでも無いけど、昔はみんなにそう呼ばれてたので…」

一瞬、沢田悲しそうな顔をした。が、それはほんの一瞬で、すぐにいつもの表情に戻る。
…そう呼んでいた人物はもういないというわけか…。
だが沢田の部下である山本武は今もそう呼んでいた気がする。だとすれば、昔はもっと仲間が居たということなのだろう。

「わかった。なら俺のことはルルでいい。」
「ルルさん…ですか?」
「呼び捨てでも構わないが?」
「そんなわけにはいきません!年上なんですから!!」


…全く、この男には驚かされるばかりだ。


この男がマフィアのボスだなんて言って、誰が信じるだろうか。
人の上に立つ器には思えない。だが実際、コイツには慕ってついてきている者が沢山いる。
学園の8人は勿論、イタリアでは多くの同志が沢田のボス就任を心待ちにしているらしい。

「それで、不備ってどれですか?」
「ここが空欄になってたんだ。ペンも持ってきたから、今書いてもらえるかな?」
「あれ?ここ書いたと思ったんだけどなぁ…。」

不思議そうにペンを取り、空欄を埋めていく。
その横ではナナリーが先程教わったらしい折り紙を折っていた。

「できました。すみません、なんか埋めた気になってたみたいで…」
「いや、構わないよ。それより、お茶も何も出さなくて悪かったな。今用意するから、少し待っててくれないか。」
「え!?そんな悪いです!」
「良いって。話したいこともあるし、のんびりしていってくれないか?それとも、ツナは都合悪い?」
わざと“ツナ”という呼び方を入れてみると、案の定「そんなこと!」という答えが返ってきた。

「じゃあ、庭で少し待ってて。今日は天気が良いから、そこでお茶にしよう。ナナリーも…」
「嬉しいですけど、遠慮しておきます。お兄様が生徒会の皆さん以外のお友達を連れて来るなんて初めてですもの。
 私は沢田さんが帰るまでに、沢山やっこさんを作って手を繋げておきますから。」

だから気にしないでくださいという言葉に甘えて、沢田と2人で庭に出ることにした。

「いいんですか?ナナリーさん…」
「咲世子さんもいるし大丈夫だ。ああ、咲世子さんは家政婦をしてもらっている人で、今はいないけどすぐ戻ってくる。
 それに、なにかあってもここなら部屋の様子がすぐわかるしな。」

そういうと沢田は安心したようにそうですか、と息を吐いた

「それで、話したいことって…というか、なんで友達だなんて嘘ついたんですか?」
「ああ、書類に不備があったから来てもらったなんて言うの、ツナも嫌だろ?だから無難に友達って言ったんだ。」
「確かにそうですね…ありがとうございます。」

苦笑しつつ、沢田はぺこりと頭を下げる。

…マフィアのボスがこうも簡単に頭を下げるとはな。

「それに疑問に思ってるんじゃないかと思ってさ。俺たちがここに住んでること。」
「あ、はい。実はちょっと…」
「ナナリーの体だと寮での生活は難しいから、学園長のご好意でここに住まわせてもらってるんだ」

沢田の顔が一瞬で曇る

「そんな顔するなよ。俺は何も、ツナを悲しませたかったわけじゃない。話っていうのも、本当は純粋に君と話してみたかっただけなんだ。」

だからそんな顔するなと言うと、少ししてにこっと微笑んだ。

「…はい。」




突然、心臓が激しく音を立てた




…って、なんだ今の動悸は!!
ありえない。俺がそんなこと思うはずが無い。落ち着け、相手は男だぞ。
それもマフィアのボスだ。これから絶対に仲間にしなければならない相手だ。

取り乱すな、隙を見せるな、俺が向こうの隙を突くんだからな!!

「ルルさん?どうしたんですか?」
様子がおかしい俺に気づいたのか、あろうことか顔を覗き込んできた沢田…いや、ツナ。もうツナだ。ツナでいい。

「お、おい!!」
近い、近い、近いだろ!!


「?どうしたんですか?」


悲しかな、当の本人に言いたいことは全く伝わっておらず、それどころか「熱でもあるんですか?顔赤いですよ?」と額に手を伸ばしてきた。

少ない距離が、さらに縮まる。
体温の高い手が額に触れた。


「熱は無いみたいですけど…俺、体温高いから良くわからないんですよ、すみません。」

「いや、大丈夫だ」
だからむしろ早く離れてくれ。頼むから。いや、近いのが嫌なわけではないが…って何を考えてるんだ俺は!!

「念のため体温け…」
「ボンゴレェェェェェ!!!!」


ごうっと凄い風と共に現れたのは、パイナップル頭だった。
勢いを着け過ぎたのか柵に激突し一度速度を落とすが、瞬時に復活し俺とツナの間に割って入った。


…俺とツナの間に、だ。


六道はツナの手をしっかり握ると「大丈夫ですか!?この変態に何もされてませんか!?」などど失礼なことを口走っている。


「ちょっと待て、誰が変態だ!鼻血を出しながら手を握ってるお前のほうがよっぽど変態じゃないか!」
「これはさっき柵にぶつけたからです!あんなところに柵を作るなんてどういう神経してるんですか!!」

お前の様な変態を排除する為だよ…!!

喉まで出掛かった台詞を、ツナの声が遮った
心なしか、いつもより声が低い。

「骸、お前なんでここにいるんだ?」
「獄寺隼人にこの変態が君を連れ去ったと聞いて飛んできたんですよ!!
 そしたら2人で密着してるじゃないですか!!僕が来るのがあと一瞬遅かったらどうなっていたことか!!」
「ふぅん、獄寺君がね…ていうか、どうもならないよ。しいて言うなら体温計取りに行っただけだよ。お前の様な変態とルルさんを一緒にするな」
「ルルさんって…!!ボンゴレェ!?ルルさんってなんですかルルさんって!!」
「うるさいうざい消えろ変態」
「おい、ツナ…?」

明らかにいつもと違う雰囲気のツナに、心配になる。
気づけば手にはグローブが嵌められていて、頭には炎の様なものが燈っていた。


!まさかこれが死ぬ気モードか!


仲間に引き入れるまでは見ることが出来ないと思っていたボンゴレの秘密兵器。
信じられないが、まさかこんな形で見ることになるなんて。

「ま、待ってくださいボンゴレ!僕は君のためにですね!!」
「骸…お前を倒さなきゃ、死んでも死にきれねぇ…!!」
ボウッと手から炎を出すと、六道は遙か彼方に吹っ飛んでいった。

「すみません、骸が柵壊しちゃって…」
「いいよ、ツナのせいじゃないだろ。あれはどう考えても六道が悪い。」
壊れた破片を集めながら話していると、ツナは驚いたように俺を見た。


目が合っただけで心臓が五月蝿く騒ぎ立てる。

な、なんなんだこれは本当に!!

「骸と知り合いなんですか?」
「あ?ああ、同じクラスだからな。」


出来れば違うクラスになりたいがと心の中で付け足しながら、ツナの口から六道の名前が出たことに少なからず苛ついてる自分がいた。
全く、何だって言うんだ。
相手は男だ。そんなこと、ありえない。

「お兄様?先程凄い音がしたのですけれど…どうしたんですか?」
「ナナリー!ツナ、ここは良いからナナリーのところに行ってもらえないか?まだ破片が散らかってたら危ないからな」
「わかりました。」

ナナリーとツナが言葉を交わした後、部屋の中に入っていく。
それは、とても優しい世界で。
いつかブリタニアをぶっ壊したとき、あの2人が笑ってくれたら、それだけでいいと思った。


……馬鹿な!ツナはただのコマだ!利用するだけに過ぎない、都合が悪くなったら何時だって切り捨てる存在なんだ!!


なのに、なんなんだ









…言い様の無い、初めて感じる、この気持ちは。