『契約を違えることは許されない』

『お前はボンゴレ10代目の為に生き、死ぬんだ』




「…嫌な夢」




冷たいコンクリートの上から起き上がる



ストレス解消のための昼寝で、逆にストレスが貯まるなんて最悪だった。




仕方ないから、睡眠以外でストレスを解消するしかない。





校内の見回りを兼ねて、草食動物を狩りに行く事にした。








STAGE 34  サヨナラ









クラブハウスから少し離れた森の中。不良のたまり場にでもなっていそうなものなのに、夕方のせいなのか、場所のせいなのか、辺りに人影は無い。



つまらない。




校舎の方に方向を変えて歩き出すと、ルルーシュ・ランペルージが歩いているのが見えた。




そういえば、クラブハウスに住んでいると聞いたことがあったかもしれない。




特に気にすることなく校舎に向かって歩いていると、沢田綱吉がルルーシュ・ランペルージに何か言っているのが聞こえる。



ちょうどいい。群れているから2人とも咬み殺そうとトンファーを構えた時だった



「骸っ!!」



確かに沢田綱吉はルルーシュ・ランペルージをそう呼んだ。
僕が殺したくて仕方のない男の名前を。



なら、考えられることは一つしかない。六道骸が、ルルーシュ・ランペルージに憑依している。
気配を消し、会話を聞き取れるところまで近付いた。


「骸っ!!」
「ツナ、俺に何か用か?」
「ふざけるな!!」
「ツナ?」
「骸、あれだけ六道輪廻は使うなって言っただろ!!何でルルさんに憑依してるんだよ。早くルルさんから出ろっ!!」
「…」
「骸っ!!」


彼の超直感とやらがルル−シュ・ランペルージを六道骸だというのならそうなんだろう。
だけど、おかしい。
六道骸がおかしい。


「クフ…クフフフ…」
「む…骸?」


嘲笑、侮蔑、嫌悪、蔑み…本来六道骸が沢田綱吉に向けるはずの無い感情、視線。
それを六道骸は沢田綱吉に放っている。


「む…骸?どうしたんだよ?」


沢田綱吉も気付いたのだろう。
それまでの威勢は全く無く、心配そうに六道骸を見る。
六道骸はまだ笑ったままだ。


「クフフフ…流石ですね。愛しい男の変化には敏感だ」
「何言って…」
「好きなんでしょう?ルル−シュ・ランペルージが」
「な…違っ…」
「好きなんですよね。キスして、抱き合って…コソコソ会ったりして…」
「ち、違う!キスなんてしてないし、抱き合ったりしてない!まだ詳しいことは話せないけど、2人で会ってたのは本当にそういうことじゃない!!」
「そんな言葉信じられません!!」
「っ…」


六道骸の大声に沢田綱吉が身を竦ませる。


「ねぇ、僕はずっと待ってきましたよね?君の中の“京子ちゃん”が完全に思い出になるまで…僕自身を見てくれるまでいつまででも待つつもりだったんですよ?」
「それは…」
「なのに、君は僕を裏切った」
「裏切ってない!!」
「残酷ですよ、君は」
「骸、頼むから俺の話を聞いてくれ」
「聞きたくありません!!君に何がわかるんですか!?僕の気持ちの何がっ!!」
「…」
「君はルル−シュ・ランペルージが好きで、奴も君の事が好きで、君は僕の事など見てもくれない」
「骸!!」
「君を今まで護ってきたのは僕なのに、なのに君は僕を見ようともしないでルル−シュ・ランペルージなんかに気を取られている!!」
「骸っ!!」


昔、マフィアに移植されたという呪われた右目が紅みを増し、毒々しいまでの紅になる。
気持ち悪い。


「僕が君を今まで護ってきた。君が望むから、気持ちを押し殺して優しく見守ってきた。優しく接してきた。
 君を取り巻く陰謀から、君の命を狙う者から護ってきた。全ては君が望んだから。
 全ては君が願ったから。仮初めの平和の世界を保ちたいと君が望んでいるから。だから僕はその為に嫌いなマフィアに入り、君の傍に居続けた」
「っ…」
「今日は僕を見てくれるだろうか?今日が駄目なら明日は?明後日は?1年後?5年後?10年後?その間の僕の気持ちが君にわかりますか!?」
「…」
「君が日本に行くと言った時、やっと彼女を“思い出”にする決意が出来たんだと思った。
 これで君はやっと僕を見てくれる。そこからが僕達の本当の始まりで、それからは僕が君を幸せにするんだと思った。
 なのに、君はルル−シュ・ランペルージなんかを好きになり、僕を忘れた」
「忘れてなんていない!!」
「忘れたんですよ、君は」
「…」
「君は僕を置いて、ルル−シュ・ランペルージなんかと共に歩む。君の隣に僕はいない」
「骸、頼むから俺の話を聞いてくれ」
「君は、君は、君は…」
「骸、しっかりしろ」
「痛いっ…。何故僕がこんな目にあう?何故、君は僕を見ない?僕が、僕を、君が…」
「骸、待ってろ。今誰かを呼んで…」
「僕をアイさず、僕から離れるなんて許さない」
「むく…」
「僕のモノにならないキミは…イラナイ」



「ぇ…」
「…」



「ワォ」





それは一瞬だった。
六道骸の三叉槍が沢田綱吉の脇腹辺りに突き刺さり、そのまま六道骸が斜め上に槍を上げ、沢田綱吉は大量の鮮血にまみれながら崩れ落ちた。






「げほっ…むくろ…何で…」
「…」
「むく…ろ…」
「…」



六道骸は何も言わない。


「ごめん…」



沢田綱吉の言葉でほんの一瞬だけ六道骸の表情が歪んだものの、また直ぐに無表情へと戻り、沢田綱吉を見下ろす。




「…」
「げほっ…」
「…」


『お前はボンゴレ10代目の守護者になるんだ』


「ごめ…むく…ごほっ」
「…」
「気持ち…こたえ…ぐっ…」



血は止まることを知らないように沢田綱吉から溢れ、地面を深紅に染めながら広がっていく。



「…」



六道骸の目は冷たく、嫌悪する生き物を見るような瞳で、沢田綱吉を見下ろす。
だけど、辛そうにも見えるのは気のせいだろうか



「…お前…ぜぇっ…こと…うっ…」
「…」


『これは契約で、取引なんだ。私達が生き延びる為の唯一の取引なんだ』


「しんじ…うぐっ」
「…」
「おま…つれ…イタリア…」
「…」


あの時の言葉を思い出す。
僕は10歳を過ぎたばかりだったけれど、あの時のことは鮮明に覚えてるし、呪いに似たあの言葉を一字一句違えずに復唱することだって出来る。


「がはっ…ごぼっ…」
「…」



『恭弥、わかってくれ。本当にすまない』



「はぁ…はぁ…」

沢田綱吉の呼吸は荒いものの、段々弱くなっている。

「むく…みえなっ…」

沢田綱吉が六道骸へと手を伸ばす。
あれだけ出血していれば力なんて入らないに等しいだろうに。

「僕に触れるな」

沢田綱吉の伸ばした手が六道骸に触れそうなくらい近付くけど、奴はその手を蹴る。

「っ…」

沢田綱吉はもう限界だ。
目も見えてないみたいだし、あの出血なら本当に後少し。
後少しでこの忌まわしい契約は無くなる。

「むく…め…ごめ…」



『君はボンゴレ10代目、沢田綱吉のものだ』



僕は自分が笑ってるのに気付いた。
そう、僕はこれを待っていたんだ。



「むくろ…ごめ…おま…わるくな…っ!!」
「…」

悪くないと言いたかったのだろう沢田綱吉は、最後まで言う事無く、全ての動きを止めた。



『雲雀恭弥さんですね。俺は沢田綱吉って言います。俺に力を貸して下さい』




2度目に会った時の事を思い出す。
弱い草食動物。
それは今も変わらない。
弱いから死ぬ。



『契約です』


契約。


『もしも10代目が…』


彼は殺された。

ルルーシュ・ランペルージに憑依した六道骸に。


「おい、ルルーシュ。これは一体何だ?お前は何をした!?」


女の声がする。
黄緑の髪が視界に入る。


「答えろ、ルルーシュ。お前は何をした!?」


その場に留まる理由はもう無いから、校舎へと向かう。
背後でルルーシュ・ランペルージの悲鳴に似た叫び声が聞こえたけど、気にならなかった。




サヨウナラ、沢田綱吉。初めて君に感謝するよ。
これで、六道骸を殺す理由ができた