学園祭の最中に突然告げられた、行政特区日本建設。

その予定地のひとつに、よく知っている、とても懐かしい名前があった。
 
 



 
並盛が、日本に、なる。
 
 



 
 
STAGE 29  入江正一
 





東京疎開を抜けて、しばらく走った場所−

学園とそう遠く無い、それでも電車で数駅は離れたところに、ナミモリゲットーがある。

「行政特区日本建設予定地」という看板が掲げられているその地は、明日から工事が始まる為か建設業者らしき人影が何人も目に入った。

住民のほとんどはすでにブリタニアの用意した仮設住宅に移っているらしく、人影といったらそれくらいで。

倒れ掛かったビル、割れたコンクリート。
未だ記憶に鮮明に残ってる並盛の姿はもうどこにも残っていなかった

クローム救出の時は必死で、周りなんて見る暇が無かった。
だから平気だった。だけど、今は違う。
変わり果てた並盛が、京子ちゃんと重なって。悲しくて苦しくて目を背けたくなる。

「っ…」

駄目なんだ。ちゃんと向き合うって、決めたんだから。

一歩一歩踏みしめるように、思い出の場所へと足を向ける。
毎日通った通学路。買い物にいった商店街。3年後にできる予定だった地下ショッピングモール。

俺の、家。もう、そこに家があったという痕跡すら残っていなかった。

「…ここを、まっすぐあるいていくと…」

足が止まる。

まっすぐ行ったその場所は、最後に京子ちゃんを見た場所だから。
 

目を瞑って深呼吸する。
 
 
 
いやだ。いやだ。いきたくない。
 
 

「っ…」
 

それでも、行かなければ絶対に後悔するから。
 

彼女の最後を看取れなかった。
 

だから、せめて。彼女の眠るこの地が変わってしまう前に。
 

いつまでも、彼女の笑顔を忘れないために。約束を、守れるように。
 
鉛のように足が重く感じる
 
だけど、足は引き摺らないで、まっすぐに向かった、その先に。
 
 
 
 
 
 
「…なんだ、来てたの」
 
「ヒバリ、さん…?」
 
 
 
 
あったのは、大きな穴と、半分に折れて枯れ果てた桜の木と、ヒバリさん。




「こういうことには鈍いと思ってたけど、超直感でも働いたのかい?」
 
 
「…え?」
 
 
 
「…違うの」
 
 
 
明らかに落胆の色を見せたヒバリさんは、俺への興味をなくしたらしくすでにそっぽを向いていた。
 
ヒバリさんの言っている意味はわからなかったけど、ここにいたのは偶然だろう。

自らを並盛の秩序と言うヒバリさんだから、勝手にこの場所を特区にされるのが気に食わないのかもしれない。
 
…目の前の、大きな穴。これはどうみても、爆撃でついた跡だ。

きっと、ここが、京子ちゃんの、いた場所で…
 
目頭が熱くなって、急いで裾で涙を拭いた
 
ヒバリさんは、呆れただろうか
 
こんなところまで来て、いつまでも泣いている俺が、ボスなんて。
 


「…え?」
 

突然横切った黒い影。風が吹いて髪を揺らした
 

「ようやく出てきたね…」
 
 
いつの間にか、離れた場所にいたヒバリさんが俺を庇う様に立っていて。

トンファーを握るその先には、誰もいない。
 
「ヒバリさん…?」
 
名前を呼ぶと同時に、四方八方から匣兵器が襲ってきた
 

「なっ!?」
「邪魔だよ」
 

思いっきり後ろに蹴り飛ばされる
 
 
傾いた視界の片隅で、匣兵器に囲まれたヒバリさんが見えた
 
 
「ヒバリさん!!」
 
 
急いで体制を立て直してヒバリさんの元に向かおうとするも、立ち上がったときには敵は全部倒された後だった
 

「大丈夫ですか!?」
 
 
答えの代わりにトンファーが飛んでくる。
 
 
「あれは僕の獲物だ。手を出したら…咬み殺すよ」

「そんなこと言ってられません!今のは匣兵器です!マフィアがこの場所にいるのだとしたら、一般人に被害が!!」

「知らないよ。殆どの人間は仮設住宅に移ってる。
 ブリタニアの用意した場所に住むなんてごめんだとか、自分で戦おうともしないのに馬鹿なこと言ってる連中の命なんて僕には関係ないし、興味も無い」

「ヒバリさん!!」
 
「それとも何?あいつらの代わりに君が相手になってくれるの?」
 
「僕はそれでもかまわないよ」とヒバリさんはトンファーを構えなおす
 
「…ヒバリさ…」
 
『ジュ…代目?10代目!!』

獄寺君の声がした。音源は耳に装着されている通信機からだ。
 
ヒバリさんを見てから、獄寺君に返事をした




『10代目!ご無事で!!』

「獄寺君。状況はどうなってる?」

『並盛でリング反応を確認したため守護者全員でそちらに向かってます。あと数分で到着予定です。念のため学園にはクローム達を残しておきました。』

「わかった。相手はマフィアだ。匣兵器も確認している。一般人の避難を最優先で行動して。」

『わかりました。10代目の護衛は俺が…』

「俺は大丈夫。ヒバリさんと一緒にいるから」

『ヒバ!?あんなヤロー信用できません!10代目!!』

「一般人の避難誘導と護衛、よろしくね。」

文句を言われる前に一方的に通信を切る。獄寺くんなら言ったとおりにやってくれるはずだから。

「…というわけで、もうみんな到着します」
「みたいだね」

「さっき、俺に向かって攻撃が来ました。敵の狙いは俺なんでしょう?」
「僕が教えると思ってるの?」

「ヒバリさんは知ってるんじゃないですか。敵がどのファミリーか。」
「答える義務は無い。」

「…そうですね」
 

突然、鋭い殺気がヒバリさんから発せられた
けど、俺に向かってじゃない。殺気の向けられた方向に目を向けると、建設業者の従業員らしき人物が走ってきていた

「ひっ…!た、たすけてくれ…!!化け物が…!!」

「大丈夫ですか!?」

敵に襲われたのか、急いで駆け寄ろうとすると、俺より先に動いたヒバリさんがその人をトンファーで殴った

「ヒバリさん!!」

「馬鹿じゃないの君。敵かそうじゃないかの判断もつかないわけ」

倒れた人の手から零れ落ちる匣。その手には指輪がはめられていた。


「…一般人じゃ、ない…?」


そういえばヒバリさんは、さっき“一般人”と言ったときに、この人たちのことを含めてはいなかった

最初の1人を合図にしてか、一斉に従業員の格好をした人たちが襲い掛かってくる
どこに隠れていたのか、圧倒的な人数だ。
 
死ぬ気丸を飲み込もうとポケットに手を突っ込んだとき、突然の圧迫感とともに体が投げ飛ばされる。

「邪魔だよ」

もう一度蹴られたのだと気づいたのは、ヒバリさんが敵に囲まれた後だった
 
「ヒバリさ…!!」
 
助けなきゃ!!そう思ったとき、視界が大きな障害物でふさがれる
 
「ストゥラオモスカ!!」

大きな手が襲い掛かってくる。急いで死ぬ気丸を飲み込むと、炎の推進力でそれを回避した

「くそっ…!ヒバリさん!!」

早く、助けに行かないと。

あの人数が相手じゃ、いくらヒバリさんでも…!!

モスカは大きな図体の割りに動きが早く、疲れを知らない機械の体だ。

真っ正面から戦っていては埒があかない…


業の炎を使いモスカから距離をとる


このままここで戦って、流れ弾がヒバリさんに当たったら大変だから逃げるふりをして誰もいないであろう廃校までモスカを誘きだした



「零地点突破初代エディション」



モスカが一斉に向かってきた瞬間を狙い技をかける

上手くいったようで、全て凍らせることができた


「早く、さっきの場所に…!?」


少し、ほんの一瞬のうちにモスカを覆った氷が溶かされる



「死ぬ気の炎…」



ザンザスの憤怒の炎と同様の技だろう


零地点突破初代エディションを溶かせるのは、死ぬ気の炎しか無いのだから




「………仕方ない…」




右手に柔の炎を集める
左手をモスカに向けて、業の炎を放った


「X−BURNER!!」



勢いをつけて身体が後ろに吹き飛ばされる



…っ!しまった…!!



失敗だ
柔の炎が少なすぎた



モスカは倒せたようだが、そのまま身体を壁にぶつける

天井から崩れたコンクリートが落ちてくる

随分と勢いをつけて吹き飛んだ様で、廃校の壁を突き破ったらしい



「っ…!!」



立ち上がろうとして全身に痛みが走った


こんなところで倒れてる場合じゃないのに


「早く、ヒバリさんの…」
「いい格好だな、沢田綱吉」


誰もいないはずの廃校に、男の声が響いた


部屋の影から白い服を着た男が現れる


拳銃を持っていて、標準は俺に向けられていた



「その制服…ミルフィオーレか」
「ああ。日本支部メローネ基地を任されていた。」




まずい
さっきの衝撃で、死ぬ気丸がケースごとポケットのなかで砕けちった
ハイパーモードになることができない





「さすがスパナだ。右ポケットを狙えと言う命令もちゃんと果たしてる」

「…お前達の狙いはなんだ。姫という人のためか?」

「姫?ああ、γが何か言ったのか?生憎僕はそんなことどうでもいい。」

「だったら…白蘭の仇撃ちか」


白蘭の名前が出た瞬間、男の目がギラリと光った


「ああそうだよ!僕は白蘭サン直属の部下だった!白蘭サンは僕の全てだったんだ!!」



男は狂ったように叫びだす



「白蘭サンは優しかった!イレヴンだからって差別しないで、僕を隊長にまでしてくれた!!
 お前には分からないだろ、イレヴンの辛さなんか!!
 夢も未来も何もかも奪われて、今日を生き抜くのも大変な生活なんて!
 エリア11になった途端に、イタリア人になったお前には!!」


大切な、人だったのか…
目の前の男は、白蘭のことが本当に大切で、だから俺を殺して仇を取りたいんだ


この人の大切な人を奪ったのは、俺自身


京子ちゃんを失った悲しみを知っているのに

誰にもこんな思いはして欲しくないと思ってるのに


「…白蘭は日本人に麻薬を売り捌いてた。君と同じ、日本人を食い物にしてたんだ。白蘭のせいで、自分を失い今も苦しんでいる人が沢山いる。」


「嘘だ!白蘭サンはそんなことしない!!」


この道を進むと決めたのは俺なのに


命を奪うことも、血塗られた道を進むことも、全部受け止めていたつもりなのに


銃口を額に押し付けられる


「…俺が死ねば、気持ちは晴れる?」


後悔はしていない
白蘭を捕まえなければ、もっと多くの日本人がリフレインの被害にあっていた


だけど懺悔の気持ちはあった
この人から大切な人を奪ってしまったのは俺だから


だから俺が死ぬことで救われるなら、それでもいいと思ったんだ

男は目を見開くと、もう一度銃口を額に押し付けた


「まさか。そんなことで許すわけないだろ。お前の守護者も周りの人間も皆殺しだ。」


「なっ…!」


「沢田綱吉、お前は簡単に死なせない。僕と同じ気持ちを味合わせてやる!!」



大切な人
俺の、大切なみんなを



『失うのが怖いなら、護ればいい。護るだけの力が今のお前にはあるだろう』



「俺にとっては獄寺君、山本、骸、ヒバリさん、お兄さん、ルルさん…皆大事で、護りたい人達なんだ。だからお前にそんなことはさせない!!」


「吼えるな。今のお前に何ができる」


大空のリングに炎を灯すと足をけり上げる


リングの力で一時的に身体が軽くなったから、簡単に動くことができた


驚いた男は拳銃を床に落とした


それを瞬時に拾い上げ、男に向けて構える



「形勢逆転だ」


「…っ!まだだっ!!」



男は匣を取り出し、指輪に炎を灯す


「!しまっ…!!」


男が匣に指輪を嵌めると、まるで大地震が起こったかのように地面が揺れた


「僕が何も考えず1人で来たと思ったか!?」


部屋が、壁が、パズルの様に移動する


「ここはメローネ基地の一部だったんだよ!」


「くっ!!」


このまま仲間と合流されたらまずい
指輪の力を使っても、ハイパーモードになれなければ戦うことが出来ない


一際大きな揺れの後、地震が止まった


「幻騎士!沢田綱吉を…」
「残念だったな。私はその様な名前ではない」


「なっ!?」
「…え?」


広がった部屋
そこに、いたのは


「ゼ、ロ…?」



漆黒のマントを羽織った、仮面の男だった