「…ハァ…ハァ・・っ…!!」


“あの場所”までの道を全力で駆け抜ける


桜の木、としか聞いていないが、ツナが行くなら、あそこしかないと思ったから







「…ツナ!!」



思ったとおり、目当ての姿を見つけそう叫ぶと怯えるようにツナの身体が揺れた











STAGE 26  Ti voglio bene.










「ルル…さん…?」

「大丈夫かツナ。何がっ…!!」

下を浮いていたツナが顔を上げる

その瞳には大粒の涙があって、驚いて言葉が止まった




…この場所がわかったのは偶然だった。
空港から戻る最中にC.C.がツナを桜の木の下で見た、遠目でよくわからなかったが1人のようだったと言うから、急いで向かったところだった


ツナは、今日会ったとき最初からおかしかった。
俺が駆けつける前に、マオに接触したようだったから、マオがツナに何か言ったのだろう。
スザクのこともある。トラウマを抉るようなことを、言われたのだろう。
桜の木の下にたということは、おそらく笹川の妹がらみ。


俺のせいだ。俺が、ツナを巻き込んで、辛い目にあわせてしまった。


「ツ…」
「ナナリーは、」
ツナは裾で涙を拭うと、搾り出すように口を開く

「ナナリーは、無事ですか」

「大丈夫、ちゃんと助け出した。今は咲世子さんがついている。」

「よかっ…」

無事と言った瞬間、ツナの目からまた涙が溢れる

必死にそれを拭うと、強く拳を握った

「ナナリーの傍に行ってください。ルルさんについてて欲しいはずです」

「…ツナも一緒にだ。ナナリーも心配して…」

「駄目です。学園に戻ってください。俺にはもう、関わらないでください」



全てを拒絶するように。

静かにその言葉が響いた


 
「何を言っている。今回のことは、俺が…」
「俺に関わっちゃダメなんです」

かたくなに瞳を閉じて、何も受け入れないというように

「違う!!今回のことは俺のせいなんだ。この前のクロームのこととは関係無…」
「…それでも!!今回はそうだったかもしれないけど、次は俺のせいでルルさんやナナリーが狙われるかもしれない。
 俺のせいで、傷つくかもしれない。俺のせいで…死んでしまうかもしれない。そうなったら、俺は…!!嫌なんだ、もう誰かが傷つくのは!!」


 
ツナの言っていることは正しい。
この前はクロームが攫われて、ナナリーにも危害が及びそうになった。
本当はこれ以上、関わらないほうがいいのかもしれない。




―――だけど





 
「俺だってお前が傷つくのは見たくないんだ」



最初は、その力を利用しようと近づいた

有力な手駒になると思ったから

だけど、それはゼロとしての考え



今は違う



もう、俺はツナをそんな風には思えない


ゼロとしても、ルルーシュとしても


俺は…ツナを護りたい。




好きだから、辛い目にあわせたくない



傍にいて欲しい。笑って欲しい。悲しませたくない。





「1人で抱え込むな。言っただろう?頼って欲しいと。前にも、この場所で。」


「や…め…」


「…ツナ?」


ツナの身体が震えだす


「ツナ!!」

慌てて肩を掴むと、拒絶するように振り払われた


「やめてください!!これ以上、俺の中にはいってくるな!!」

「…っ!?」

「いらないんだ!誰も、何も!!もう、大切なものは作らないって決めたんだ!!なのに、なんで、獄寺君も、山本も、雲雀さんも、お兄さんも!!」

「ツナ!しっかりしろ!!」

「嫌だ!!俺には京子ちゃんだけでいいのに!!なのに、なんで…みんな、優しくて、嫌えなくて…ダメなんだ…大切は、京子ちゃんだけで、いいのに…」

「つな…」


胸に痛みが走る

京子ちゃんだけでいい。おそらくそれは、ツナの本心。


「むくろ…好きだっ…言っ…いやだ…おれは…京子ちゃんが、好きなのに…」

「!六道が…!?」

「いやだ…もう…ルルさん…優しく、しないで…俺は…そんな資格…ない…」
 

溢れ出した涙は止まらないようで、そのままツナは泣き崩れた




六道が、想いを告げた…

いつも冗談のように言ってはいたが、本当に告白する素振りは、全く見せなかったのに。



奥歯が音を立てる



六道のしようとしていた事が、今になってようやく理解できた気がした


想いを告げても、ツナは悲しむだけなのだ、と




「…ツナ」


そっと、頭に手を乗せる


そのままゆっくりと抱き寄せると、嫌だというように胸を押される

だけど、断固として離さない。

「…大切なものが増えるのは悪いことじゃない。

 失うのが怖いなら、護ればいい。護るだけの力が今のお前にはあるだろう」


「俺には、力なんて…」


「ある。この前だって、洞窟で何度も助けられた。お前がいなければ、俺はあの時死んでいただろう」


死んでいた、という言葉に反応したのかツナの肩が揺れる


「六道の気持ちに応えられないならそう言えば良い。
 だけど大切なものを作りたくないからという理由で誰かを遠ざけたりするな。
 そう思った時点で、ソイツはお前にとってもう、大切な人なんだろう…?」



「俺が…助けた…?」



「ああ。お前のおかげで、俺は生きてる。」


「…っ…おれ、は…」


誰かを大切に思うのが怖かった
京子ちゃんの、最後の願いばかり考えて
お兄さんとの約束を、笑って欲しいという願いを、忘れていたわけじゃないのに
本当はわかってたんだ、みんなが、俺にとって大切になってることくらい
だけど認めたくなくて
認めてしまったら、お兄さんを護れなくなってしまうんじゃないかって
護られてるのは、いつだって俺のほうだったのに




ぽつぽつと、あふれ出すように出てくる言葉を、聞き逃さないように頭に留める






ツナの心はいつだって、笹川京子で埋め尽くされている






だが、俺は―














「…おねがいが、あるんです」

「なんだ?」

「骸に伝えたいことがあるんです。本当にあつかましいお願いなんですけど、一緒に…」














SOS団と大きく掲げられたプレートの前で、ツナは大きく息を吸い込む

目をつぶり、繋いだ手に力を入れて握ると、前を見据えてそれを離した


「…行って来ます」

「…ああ。いってらっしゃい。」


中からは死角となる場所にいるのを確認すると、ツナはそっと扉を開けた。



「…骸。」

「…何ですか。こんなところに1人で来るなんて。…まあ、1人じゃないみたいですが」

殺気がまっすぐに俺を射抜く

見えてないはずなのに、俺が外にいることなんてわかりきっているらしい

「僕に何か用ですか?あぁ、傷口に塩でもぬりに来たんですか?」


「骸…ごめんなさい!!」



「…それは何に対しての謝罪ですか?」

「俺は、大切な人は作らないって思ってた。京子ちゃんの願いを護るためって理由で。でも違ったんだ。
 俺はただ自分が傷つきたくないから、京子ちゃんを理由にして逃げてただけだって」


「…」


「だけど、いつのまにか大切な人はいっぱいいて、でもそれを認めたくなくて、中途半端な態度をとって骸を傷つけた。だから、ごめん」


「…で、外にいる男が好きだと気づいたんですか?そんなことを言う為に、わざわざ、こんなところに見せ付けにきたんですか!?」
「違う!!」

六道が声を荒げたことに少し驚いた。
六道は、そういうタイプでは無いと思っていたから。けど違う。こいつはツナのためなら、どんなこともするのだと。

「京子ちゃんがすきなんだ。それだけは、ずっと変わらない。ルルさんは大切だけど、俺は、京子ちゃんがすきなんだ」


「そんなことが、今更…」


「ルルさんだけじゃない。骸も、お兄さんも、獄寺くんも、山本も、リボーンも、クロームも、ナナリーも、みんな大切で、失いたくない。
 もちろん、仲間とか友達っていう意味で言われたら、みんな大好きって応えるよ。だけど、俺が好きなのは京子ちゃんだけなんだ。」






…やはり、キツイな…これは。

こんな場所で、堂々と失恋を言い渡されるとは…わかっていたが、胸が締め付けられる。








ツナのお願いというは、六道に返事をするのに自分が逃げないよう一緒についてきて欲しいというものだった。


どんな内容になるか検討はついていた。断ることもできたのに、それをしなかったのは…




「だけど骸がこんな俺を好きだって言ってくれて、本当はすごく嬉しかった。」


「話はそれだけですか?」


「うん。…ありがとう、骸。」

「クフフ…礼を言うのはまだ早いですよ。僕は君をあきらめるつもりはありません」



「うん!…って、えぇ!?」




「要は僕が“大切”から“好き”になればいいのでしょう?君の気持ちがわかった以上、これまで以上にアタックしますから覚悟してください」


「ちょ、待って!俺京子ちゃんが好きって言ったよな!?ていうかアタックって古っ!!何時代の人だよ!!」



「古いとは何ですか!!ああ酷い!それが大切な人に対する物言いですか!?」

「うわキモッ!!うるうるしてこっちみるなー!!」





いつもどおり、か…



いやそう見えるのはうわべだけ


今日からが、本当のスタートライン



どちらがツナの大切から特別になれるかという―――







これからが、本当の戦い