もうやらないと決めていたが、それでもどうしてもと頼まれた賭けチェス試合。 その為に訪れたとあるホテルで見知った…だが、その場にいるはずのない人間の姿をみつけて驚いた。 「何故お前がここにいる?」 「何故って、僕が君の相手だからですよ」 「何?」 1人掛けのワインレッドのソファーに悠然と座りながら六道は答えた。 「事実ですよ。僕はこれでも昔、マテュース市杯で優勝したことだってあるんです。昔の通り名はblack・Kingdom …最も、この名を知る者は今はいないでしょうけどね」 「どういう意味だ?」 机の上に置いてあるチェスボードを挟んで反対側のソファーに腰掛けて尋ねる。 「さぁ、どういう意味でしょうね」 「…」 「クフフ」 「時間です」 審査員の、感情の無い声が響く 「はじめるぞ」 「えぇ」 STAGE 27 チェス 「Black or White?」 「「Black」」 「…」 「…」 「黒…ですか。君が?」 「お前こそ黒なのか?」 「…いいでしょう。君に黒を譲りますよ。僕は先手の白をもらいます」 「いいのか?」 「構いませんよ。たまには白でも面白そうだ」 六道は白のキングを手に取ると盤上に置いた 強い。 こんなに強い相手はシュナイゼル以外にはいなかった。 「…」 「…」 確かに六道骸は普段はふざけているが、頭は切れる。 だが、俺とやりあえるほどチェスが強いとは思わなかった。 キングを動かす 「キングですか。これは意外な手ですね」 「王自らが動かなかったら、部下はついてこないからな」 「…同感です。では、僕も」 そう言うと六道骸は白のキングを動かした。 「…」 「クフ」 「1つ聞きたい」 「答える気があれば答えましょう」 「何故こんな所にいる?」 「つまらない日常からの逸脱…あぁ、これは君でしたね」 「…」 「クフフ。ほら、君の番ですよ」 ポーンを取られやすい位置に動かし、六道骸が言う。 六道骸は強い。 強いが、変な所に駒を置く。 「何故こんなに変な場所に駒を置く?」 ポーンを取りながら尋ねる。 「質問は1つだったのでは?」 「…」 「まぁ良いでしょう。ルルーシュ・ランペルージ、ゲームはその人間の性格が出るものだと思いませんか?」 「…」 「君はキングを動かした。自尊心が高く、頑固だ。そして、現状に満足していない」 「…なら、お前はどうなんだ?現状に満足しているとは思えないが」 「僕も満足してませんよ。そして僕は目的の為なら手段は選ばない。このように」 「っ…」 今まで注視していなかったポーンが俺のクイーンを奪う。 「忘れていたんですか?ポーンは敵陣に辿り着けばチェンジする」 「くっ…」 「クフッ」 予想外の動きに戸惑う。 俺が読み違えるなんて…あれほどのポーンを取られるのが前提なんて。 「常にキングの後方に位置付き、王を護るナイト。それがお前の戦い方か、六道?」 平静を装って尋ねる。 「君は頭が良い。2手も3手も…もしかしたそれ以上先をよむ。だが、それが君の弱点にもなる」 「?」 「こういう手は考えました?」 「っ…」 考えなかったわけではないが…使われるとは思っていなかった。 リスクが高すぎる。 「どこでこんな打ち方を?」 「さぁ、どこだったか忘れました。随分と前の話ですし」 「…」 「君こそどこでチェスを?」 「昔、本国にいた時にな」 「そうですか」 聞きたいことは山ほどある。マオの時のこと、クロームの事、雲雀恭弥や六道骸の契約のこと。 「六道骸、お前は俺の敵か?」 「敵です」 「即答だな」 「当たり前です。僕が君の味方?冗談じゃない」 「じゃぁ…契約って何だ?」 「…何でそんなものを知りたがるんです?」 「この間洞窟でツナが契約だと言ったら雲雀恭弥が大人しく従っただろ」 「あぁ。彼の契約ですか」 「そうだ」 「彼はボンゴレに逆らえない…それだけですよ」 十分逆らっていると思うが…。 「そうなのか」 「えぇ」 盤面を見る。 圧倒的に白の優勢だった。 「チェックメイト」 六道骸の声が部屋に響く。 叫んでいるわけでもないのに、その声が反響しているように感じた。 「…」 「君の負けです」 奪い取った黒のキングを、興味なさそうに盤上に転がしながら言う。 「俺が…負けた?」 「そうです。君が負けました」 「っ…」 「興醒めです。君はもう少しは強いかと思った」 つまらなそうに六道は続けた。 「…」 「チェスの代打ちが聞いて呆れますね」 「!?何故その事を…」 「さぁ、何故でしょうね?」 「はぐらかすな!!」 人を見下すような笑みで見られ、思わず声を荒げた。 「ルルーシュ・ランペルージ、僕は何もしていませんよ?チェスで負けたのは君が弱かったからだ」 「…」 「そう、君は弱い。彼も、彼女も護る事は出来ない」 「…」 「君は僕たちと同じ世界では生きられない。偽りの姿なら別かもしれませんが」 「何の…話だ…」 無視できない言葉に緊張が走った。 知られているはずは無い。 知られているはずが無い。 「何の話だと思います?」 六道骸の殺気に気圧される。 以前雲雀恭弥に気圧された時と似て、否なる殺気。 「っ…」 「…喋りすぎましたね。僕はもう帰ります」 「…」 「君が彼と同じ世界で生きることは不可能なんですよ」 帰り際に告げられた一言。 それが真実になるのは…そう先のことではなかった。 |