未だにツナを抱き締めている獄寺隼人を引き剥がそうとすると、笹川が掴んでいる腕をぐっと引っ張った



「沢田!ロードワークに少しルルーシュを借りるぞ!」


「えぇ!?トレーニングなら山本とやったほうが…」


「たまには別な相手との練習も必要だ!行くぞルルーシュ!!」


「おい!今はそれどころでは…うわっ!」


抵抗も虚しく、俺はズルズルと引きずられてクラブハウスから遠ざかっていく


ナナリーとツナをそこに残して



「おい!離せ笹川!!」






STAGE 13 兄






ドアノブを回す音と共に扉が開く

このような古風の扉がある場所は限られていて、ここはその1つである屋上だ


「…ロードワークに行くんじゃなかったのか?まさか、階段を駆け下がれとでも言う気じゃないだろうな」


自分でも頬がひきつるのがわかる

何故今こんな場所にわざわざ連れてこられたのか意味が分からない


それもツナが抱きつかれている時に!


「まあそう言うな。お前に話があってな」


「話…?」


「ああ…沢田のことだ」


笹川は柵に手を置くと、それに体を預けて空を見上げた

…ツナのことと言われれば聞かないわけにはいかない

仕方なく隣に行き、笹川とは逆に柵に寄りかかる


「それで?ツナには聞かれたくない話なんだろ?」

「ああ…すまんな」


笹川は空を見上げたまま、まるで願うように言った




「お前の前では、沢田はよく笑ってるのか?」








何を、当たり前のことを
俺は少し、いやかなり拍子抜けした気分だった
わざわざ連れ出したくらいだ、どんな話かと思えば…







「どういう意味だ?」


「沢田は笑っているか?と聞いたのだ」



「質問の意味が理解出来ないな。そんなこと、お前だって聞かなくても分かっているだろう。」


ツナは最初に会ったときからよく笑っていた。
その笑顔が儚くて、眩しくて、愛しくて
だから、俺は…



「分からんから聞いているのだ。俺達の前では、沢田は笑わないからな」


「何…?」



そんなはずは無い
だってツナはいつだって




「今日も山本と獄寺君が喧嘩して大変だったんですよ」
「これ、ナナリーに似合うと思って」
「わっ!ありがとうございます!」
「ルルさん」


…違う。一番最初にツナを家に呼んだとき、何故クラブハウスに住んでるのか話したときに見せた笑顔は今では考えられないほど悲しみに溢れていた

ナナリーのことを聞いたからだと、あの時はそう思っていたけれど




「イタリアに行ったばかりの頃はいつも泣きそうな顔をして、それこそニコリともしなかったんだ。
 六道が来てからは表情も少しずつ明るくなって微笑むようになったんだが…
 あんな風に声をあげて笑う沢田を見たのは7年ぶりだ。おそらくタコ頭や山本は初めてだろう。」




「7年だと!?」


そんなに長い間、ずっと…


「彼女のことを……………!」


そこまで言ってハッとした


ツナが好きだった女は、笹川の…


「ルルーシュ、お前…京子のことを知っているのか?」

笹川は目を丸くして、驚いた様に言った

しまったと後悔してももう遅い

「…すまない。辛いことを思い出させて…」

「いや、それはいいんだ。それより、沢田がお前に言ったのか?京子のことを。」

「…言わせたと言った方が正しい。以前ツナが彼女の名前を呟いたことがあったから、誰だと聞いたんだ」

「…そうか。だが、確かに沢田が言ったのだろう?」

「ああ…」

俺の答えに満足したのか、笹川は嬉しそうにもう1度空を見上げた

「アイツが京子のことを話したのは、お前が初めてだ」

「…六道や、他の奴等は…」

「六道は自分で調べたようだが、タコ頭や山本は小僧から聞いたんだろう。他の奴等は解らんが…沢田は決して、誰にも話そうとはしなかった。」


小僧…アルコバレーノのことだろうか


「口に出すことで京子の死を肯定するとこになるのが恐いんだろうと小僧は言っていたが、俺はそれは違うと思ってな」


「…どういうことだ?」


「あの日から沢田は変わった。強くなり、弱い部分を誰にも見せないようになった。だから京子のことを話すのは、相手にそれを見せることになると考えたのではないかと思うのだ」


「…」


「だから俺は、沢田が話したというのは極限に嬉しいぞ!」


笹川は太陽という言葉が似合う、本当に嬉しそうな笑顔で笑った


「…お前は、」

「なんだ?」




まるで家族のように大切に、ツナのことを思ってるんだな




「いや…ありがとう」


「…?何故お前が礼を言うのだ?」


「何故だろうな?」


「意味がわからんぞ!」


「別にいいだろ?それより、そろそろ戻るぞ。夕飯の支度もあるからな」

「む?自分で用意するのか?」

「まあな。そうだ、お前も来るか?ツナも誘って、ナナリーと4人で」


「それは極限にいいアイディアだな!是非お邪魔させて貰うぞ!!」


「なら今日はツナの好きなハンバーグだ」


雑談をしながら部室へと戻る


ツナは相変わらず獄寺隼人に抱き締められていて、力一杯引き剥がす俺を笹川が笑いながら見ていた

「くそっ…笹川の奴…少しは手を貸したらどうだ…」

「大丈夫ですかルルさん!トレーニングの後で…」

「トレーニング…?ああ、そうだったな…」


「?」


「それよりツナ、今日の夕食なんだが、一緒に…」



笹川に感じた近親感
それはきっと、兄としての