生徒会副会長であるロロのお兄さんは頭が良くて。弟思いで優しくて。
ロロの友達の俺にもすごく親切にしてくれる。それが俺のお兄さんに対する印象だった。

少なくとも、今このときまでは。




「…随分もてるんですね、お兄さんって。」

目の前には、女性に囲まれるお兄さんの姿。
そしてその人たちはどうやら2又どころでは無く、100又以上をかけられているらしい。

「違う!誤解だ!これはっ!!」

「別に。ロロに言ったりしないから安心してください。」

最愛の弟には知られたくないのだろう。
ロロはお兄さんがこんな人だなんて気づいてないみたいだし。
すごく焦ってるお兄さんに冷ややかな視線を向けてそう言うと、もっと動揺した様子で言い返される


「待て!俺はけしてそんなつもりは…!!」


ああそっか。もし俺がロロといる時お兄さんに会って、いつもと違う態度とられると困るからなんとか誤解って言うことにしておきたいのか。


「別に誤解でもそんなつもりが無くても俺には…」
「それってどういうことよルル!!」


関係ありませんから、別に態度を変えようとも思ってないので安心してくださいと言おうとしたんだけど、それはオレンジ髪の女の人の声に遮られて途中までしか言えなかった。

この人は知ってる。確か生徒会の人で、ロロやお兄さんといるのを何回か見たことがある。

同じ生徒会の仲間にまで、手を出してたんだ…

俺たちマフィアは女性に優しくがモットーで、別に俺はマフィアになりたいわけじゃないけど幼いころから言われ続けてきたこの教えはもはや当たり前のことになっていて。

だから浮気とか何又とか、そういうのはやっぱり見ていて気分のいいものじゃない。

そう。お兄さんが女の人と何か話してるのを見ると起こるこの胸の痛みと苛々は、きっとそのせい。



「そうだこれ、きちんと話せなかったからお詫びに…」
「お詫び!?この前のことをもので済まそうって!?」


お兄さんはこの間のお詫びだと生徒会の人にプレゼントを渡す。
プレゼント。ロロはお兄さんに貰ったロケットをあんなに大切にしているのに、お兄さんにとってはプレゼントはその場しのぎのものでしかないってこと!?


「…」
「おい!待てツ…」
「ルーック!決めたわよ!私の卒業イベント!!」

これ以上ここにいても嫌な思いをするだけだと思って寮に帰ろうとした時、突然テラスがライトアップされ自然と視線がそっちに向かう


「名づけて、キューピットの日!!」



ああ大変なことになったよ!!







TURN12   真実の記憶





キューピットの日。
会長権限による強制イベントで、その日は全員がハート型の帽子を装着。
意中の相手の帽子を奪い被った時点でカップル成立。はれて2人は恋人同士というわけである。


「クフフフフ!まるで僕の為に用意されたようなイベントです!ボンゴレの帽子を奪って今日こそ恋人に!!」
「骸!テメェに10代目の帽子はわたさねえ!!右腕として10代目の帽子が俺がぜってー死守してやる!!」
「獄寺の帽子は俺のものな!」
「こんなイベントに興味は無いけど綱吉の帽子を奪うのはこの僕だよ。」


そんな日に俺の周りにいるのは何故か男ばかり。しかもみんな俺のファミリー。
ああもう嫌だ!なんでこんな面倒なことになったんだよ!!
それもこれも、全て女癖の悪いロロのお兄さんが元凶だ。


「…あれ?そういえばロロは…」



「みなさーん!今日が最後の生徒会長、ミレイ・アッシュフォードでーす!!」




親友の姿が見えなくて心配になるが、会長さんの一言にそれは頭の中から消え去ることになった




「3年D組ルルーシュ・ランペルージの帽子を私のもとに持ってきた部は部費を10倍にします!!」


「え!?」






まさか、会長さんもお兄さんを…!?






胸が締め付けられる


どうして、お兄さんのことを好きな人がいるって思うと、胸が痛い?
俺は自分で自分のことがわからなくて、だからそんな俺を骸が見ていたなんてこのときは気づかなかった。



「それではスタート!!」






「うわぁぁ!!すみません!ごめんなさいぃぃ!!」





開始の合図と共に俺に向かってこようとした骸とヒバリさんが戦闘に入り、獄寺君の帽子を奪おうとした山本にダイナマイトが飛んでいく。

酷い惨状と化した教室には幸い他の生徒はいなかった為(みんなお兄さんを捕まえに3Dに行ったらしい)、俺は気づかれないようにその部屋から逃げ出した。

イベントが終わったらちゃんと教室の修理しなきゃなー。間に合わない分は骸の幻覚で補わせよう…


「!ボンゴレ!?どこですかボンゴレ!?」
「…ッチ。君のせいで見失ったじゃないか」




!ヤバイ!もう気づかれた!?
もうなりふりかまっていられない!!

死ぬ気の炎を足に集め、炎の推進力で超加速する。
突然の強風に生徒が悲鳴を上げるが、姿は見えてないだろうから大丈夫だろう。
恋人なんて冗談じゃない。別に骸を嫌いなわけじゃないけど、骸の言う好きと俺の骸に対する好きは違う気がするから。

ちょうど良く人気のなさそうな図書室があったからそこに身を隠そうと扉を開いて…後悔した。

「返してくれないかな?その帽子を」
「はーい」



…すごいなぁお兄さんって。お願いすればどんなことでも聞いてもらえるんだ。
あの女の子、恋人になりたくて頑張ってるのに笑顔で頼めばイチコロだもんねぇ…



無意識に足に力が入ったらしく、小さな音が静かな図書室に響いた


「誰だ!!」


「…別に、何度も言いますけどお兄さんが実は女たらしだなんてロロに告げ口したりしませんから」


「ツナ!?」



お兄さんは本当に驚いたように目を見開いて叫ぶ。

…え?ツナ?どうして、その呼び方を…


「どうしてここに…いや、それより見たのか!?」

「俺が見たのは帽子を返してくれってとこだけです。それとも見られたらまずいことでもしてたんですか?」

「!いや…そんなことは…けして…」

なんだろう。嫌だ、すごく苛々する。
お兄さんがこの女性と何かしてたらって考えると凄く嫌な気分になって、自然と口調がきつくなっていく。


「じゃあ俺はお邪魔なようなので消えますね」

「!待て!!」


これ以上この場所に居たくなくてお兄さんに背を向けたとき、手を捕まれた。

…!?
何…?どうして、懐かしい感じがするの?


「…今戻るのは危険だ。その…六道が帽子を狙っているのだろう?」
「え?どうして、そんなこと…」
「…ロロに聞いた。だから…」


ふわっと頭が軽くなる
一瞬の出来事に思考が追いつかないでいると、またすぐ同じ感覚と共に帽子の重みが帰ってきた

「…じゃあ、俺は身を隠すから」
「…え!?お兄さん!?」


何が起こったか分からずにいる俺にただ一言そう告げて、お兄さんは本棚の影に消えてしまう。
広いといっても同じ図書室にいるのだから、探せばすぐ見つかるだろうけど何故かそれも出来なかった。


最後に一瞬だけ見えたお兄さんの姿。
何1つ変わってないようで、唯一一箇所違っていたこところがあったから。



「お兄さんの帽子…焦げてた」



それはまるで爆発に巻き込まれたような痕。まるで、俺がさっき獄寺君のダイナマイトを避けたときに付いたような…


そっと自分の帽子を手にとって見る。それには、あるはずの焦げ目が存在しなかった。



…どうして?お兄さんが、俺の帽子を被ったっていうの…?



「ハア!!」



…ん?
すごいスピードでお兄さんらしき人が俺の横を通り過ぎて行った

あれ?今のお兄さん?なんかイメージ違ったような。てかさっきまでと別人なような。
それに帽子焦げてなかったよ?あれ?焦げてたのって俺の勘違い?もともと焦げ目なんて無かったんじゃない?





「…馬鹿みたい」



全部俺の勘違い。お兄さんは多分俺の帽子が曲がったか何かしたから直してくれただけで。


「何やってるんだろう、俺…」



少しでも期待した自分が恥ずかしくて、隠れる様に階段の下の書庫の奥に入りうずくまる。

…期待した?何に?俺は何を期待してたの?


お兄さんに、帽子を取って欲しかった?


お兄さん…?お兄さんって、誰のこと?
俺がお兄さんと呼んでいるのは、本当にあの人だった?




「なんで、そんなこと…」




お兄さんじゃないなら、何だって言うんだ

あの人は、ロロのお兄さんで。少ししか会ったことも、話したことも無いけど、凄く優しくて弟想いで。
だから弟の友達の俺にも親切にしてくれるけど実はシャマル並の女たらし。俺が知ってるのは、ただそれだけなのに。
















「確かこの辺りでルルの様子がおかしく…」

…上のほうから女性の声が響く。なんとなく、嫌な予感がした。俺はこの声を知っている。



「危ない!!」


ガラスの割れる音と共に、あの人の声が聞こえた。

俺の頭を支配している人の、声。




爆風の様なものと共に人の気配が近づいてくる。

すごく近くで、お兄さんの声がした。


本棚一枚挟んだだけの至近距離。だけど、お兄さんは俺に気づいてない様だった。
…勿論、お兄さんが庇うようにして一緒に落ちてきた女性も。

近すぎる距離は、聞きたくない会話まで否応無しに聞こえてしまう。


「…ねえ、ルル。どうして私にキスをしたの?」




心臓を鷲掴みされたような痛みが、体中を支配する




「そ、それは…好き、だから」






…っ!!!
嫌だ、嫌だ、聞きたくない!!


涙が零れ落ちて、埃だらけの床にしみが出来る



胸が酷く痛んでどうしようもなく辛くって。


どうして?どうして?俺はお兄さんのこと、そういう意味で好きなわけじゃない。好きじゃないはずなのに。










2人は帽子を交換したようで、寄り添いながら図書室を後にした。

1人取り残された俺は、ただただそこで涙を流すだけ。



















雨の中を傘をささずに歩いた。

世界が姿を変えた。
気づいたんだ、この違和感に。
1度気づいてしまったら、もう気づかなかったころには戻れない。


了平さんという呼び方、スポーツ同好会の部員数、いた筈のクロームの友達…

そして…ロロと、お兄さん。








何かが違うと、それだけは嫌というほど分かるのに。

何がおかしいのかと聞かれると、どうしていいのかわからなくなる。

思い切って聞いてみても、了平さんの返事は以前からそう呼んでいたぞ?と言うもので。

なら、俺の感じている違和感は、やっぱり、勘違い…?











「っ…!?」








突然赤い光が街中に広がった

頭が、痛い…!!





おい、お前。今見たことは全て忘れろ!!
こっちに来てください。話をしましょう。
副会長のルルーシュ・ランペルージだ
はじめまして。妹のナナリー・ランペルージです。
なら俺のことはルルでいい。
じゃあ他の部員は転入してきたばっかだし、生徒会副会長で色々分かってるルルーシュが部長ってことで良いわね?
もっと頼って欲しい。少しは力になれると思う。
君には、黒の騎士団に入ってもらいたい。
…っ…ツナ…大丈夫か?
ナナリーに会いに行く
“京子”というのは…お前の…
中でも沢田さんのお話が一番多いんですよ

きゃあぁぁぁ!!
いや…お兄ちゃん!!
ツナ…くん…?
助けて…ツナくん…

京子の遺体は、運び出せなかった
笹川がお前を助けたんだぞ
お前が気に病むことはないんだ
君はいつまで逃げてるの
僕が彼女を忘れさせてあげます

好きだ
僕は君を愛しています
そうだ、俺がゼロだ
ギアス…絶対遵守の力

記憶を書き換える。ナナリーのことマリアンヌのこと、そしてこの男、沢田綱吉のことも。

この男と笹川京子の記憶を消すのなら、協力しても良いと言ったんです。
彼女のことを忘れれば、君は僕を好きになります。こんな男ではなく、今度こそ僕のことを。




「シャルル・ジ・ブリタニアが刻む。新たなる偽りの記憶を―」







「…ぇ………」











思い、出した






京子ちゃん
お兄さん
ナナリー
そして…ルルさん






「お、れは…」





ルルさんが、好きだった
京子ちゃんを忘れられなかった俺に、もう1度誰かを愛する勇気をくれた。
こんな俺のことを好きだって、護りたいって言ってくれた。
俺もルルさんを護りたかった。ルルさんだけじゃない。大切な人、みんなを護る力が欲しかった。





だけど、俺はまた護れなくて。





「そ、それは…好き、だから」





だから


これは


罰なんだ


















ルルさんはもう、俺のことなんて好きじゃない