「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…げほっ」
「君さ、邪魔だから帰ってくれない?」

冷ややかな視線をルルーシュ・ランペルージに向ける雲雀恭弥に激しく同意する。
この男ときたら、敵が仕掛けた古典的で典型的なトラップをことごとく発動させていた。
ある時は矢が降り注ぎ、ある時は槍が突き刺さっている穴に落ちそうになった。
勿論ルルーシュ・ランペルージがだ。
他には、階段がいきなり坂になったり、大量の水が押し寄せてきたり、天井が落ちてきたり…思い出していたら何か苛ついてきました。



「ぁ…」
「…」
「…」
「…」

これで何度目かを数えるのすら億劫になるほどのトラップを発動させてもまだ足りないらしく、ルルーシュ・ランペルージがまた新たなトラップを発動させた。









STAGE 16  罠










「…今度は何ですか?」

「…」

「…」

ボンゴレは目を反らし、雲雀恭弥は鬱陶しそうにしている。
鈍い音が1回した後、勢いを付けて大岩が転がってきた。
狭い洞窟の幅より直径が少し短いその岩は、人が通り抜ける隙間を残してなどいない。

「…はぁ」

雲雀恭弥が溜め息をつき1歩前に出る。
僕は大人しく彼より後ろに、ボンゴレはルルーシュ・ランペルージを庇うように下がった。
大岩は加速してこちらへと向かってくる。

「危ない!!」

ルルーシュ・ランペルージが叫ぶのと、轟音が響いたのはほぼ同時だった。

「誰が危ないって?」

土煙の中から顔色1つ変えずに雲雀恭弥が現れて言う。
ルルーシュ・ランペルージは唖然としているが、これが僕達の世界。
この程度が出来なければボンゴレの幹部もボスも務まらない。

「無事なのか!?あんな大岩に当たって!?」
「ヒバリさんは岩に当たったんじゃなくて、トンファーで岩を砕いたんです。だから怪我1つしてないんです」
「なっ…」

ルルーシュ・ランペルージが言葉を失う。

「僕が怪我なんてしてるわけないでしょ」
「君だけなら完全にお陀仏でしたね」

皮肉を言ってみるが反論がない。
それもそうだろう。
この洞窟内でルルーシュ・ランペルージが発動させたトラップは全て僕達が破壊・突破した。
僕達がいなければ彼は何度死んでいたかわからない。
最初こそボンゴレが止めるのも聞かず妹のもとへ戻ろうとしていたが、何度もトラップに引っかかり1人で帰るのは諦めたようだ。
そのまま勝手に帰って死ねばよかったものを…
僕達は今までの経験上、トラップの法則というものがある程度わかっている。
だが、彼は全くわかっていない。


「先に進もう。クロームが心配だ」
「えぇ」
「あぁ」
「…」






「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…」
「大丈夫ですかルルさん。手貸してください」
「こんな奴に手を貸す必要なんてありませんよ」
「…君、邪魔だから帰れば?」

雲雀恭弥の冷たい一言がルルーシュ・ランペルージへと投げつけられる。
心なしか、さっきより苛ついている気がする。
まぁ、気持ちはよくわかりますが。

「駄目です。ここから1人で帰すなんて危険すぎます!!」
「足手まといなんだよ。そいつのせいで余計な手間はかかるし、進みが遅い。君だってわかってるんでしょ?」
「…」

雲雀恭弥の正論にボンゴレが言葉を詰まらせる。

「僕も雲雀君の意見に賛成です」
「む、骸まで!!」
「心配しなくても平気ですよ。ルルーシュ・ランペルージはここに置いて、後で取りに来ればいいんです」
「ぜぇ…俺は荷物じゃ…ない…」
「足手まといは荷物で十分です」
「…」
「…ヒバリさんと骸の言うことは、確かに正しい」
「ツナ!?」
「でも、俺にはそんな事は出来ない!!ルルさんだって大切な友達なんだ!!」

まぁ、そう来るだろうとは思ってましたけど。

「…」
「…甘いですね」
「ごめん」
「彼のせいでクロームが危険な目にあってるかもしれないんですよ?」
「わかってる。それでも俺はルルさんをこんな所に1人で置いてくなんて出来ない」
「ツナ…」
「大丈夫です。俺達が必ず護ります」
「…」
「俺達ってまさか僕も入ってるの?僕はそいつを護るなんて一言も言ってないよ」
「えっ!?」
「僕も彼を護るなんてごめんですね」
「なっ!?」
「やるなら勝手に君がやりなよ」
「そんな…」
「僕は知らない」
「ヒバリさぁん…」

ボンゴレの情けない声すらも気にせずに雲雀恭弥は先に行ってしまう。
その少し後、大きな音が聞こえた。
どうやら本格的に苛ついているらしい。
それは僕も同じですけど。

「ヒバリさん、荒れてるなぁ」
「あんな雑魚しか引っかからないようなトラップにことごとく引っかかり、時間をかけさせた奴がいますからね」
「っ…」
「骸!!」
「僕は事実を述べたまでですよ」
「…本当に…申し訳ない…」

素直に謝ってきたルルーシュ・ランペルージに驚くも、許す気になどならない。

「骸、クロームがさらわれて苛々するお前の気持ちはわかるよ。でも、ルルさんにあたるな」
「…」
「ルルさんは一般人なんだ。仕方ないだろ」
「一般人…ねぇ」

ルルーシュ・ランペルージを見つめる。視線に気付き、彼は顔をあげた。

「何だ、その目は?俺が一般人じゃないって言いたいのか?」
「…」
「骸」

ボンゴレの怒ったような、困ったような声を聞き、ルルーシュ・ランペルージから視線を逸らす。

「…今はクロームを助けるのが先決です。今は」
「…」

ルルーシュ・ランペルージは何も言わなかった。










「遅い」
「す、すみません」

先に大きな扉の前にいた雲雀恭弥に合流すれば、直ぐにが文句が降ってきて、ボンゴレが謝る。
まったく、どっちが立場が上なのかよくわからない。


「これ、何とかして」

雲雀恭弥が扉を指差す。正確には、扉の中央にある指輪の穴だ。

「試したんですか?」
「雲でも霧でもない」
「わかりました」

ボンゴレが首から下げていた指輪をチェーンから外し中指に通す。
指輪に炎を灯し、小さな穴へとあてた。
刹那、まるで水路を流れる水のようにオレンジ色の綺麗な大空の炎が扉の彫り伝い、消えたと同時にゆっくりと音を立てながら扉が開いた。
理解が追いついていないルルーシュ・ランペルージは、呆気にとられたような顔をして見ている。

「行こう」

真っ暗な扉の先へと僕らは歩き始めた。









「広い空間みたいですね」

真っ暗闇で視界が効かない。

「障害物があるようには感じないね」
「だだっ広い空間…って感じ」

声の反響具合や空気の揺れから考えても2人の意見はおそらくは正しい。

「おい、本当にここが目的地なのか?」
「そんなの知らないよ」
「君の目的地はアッシュフォードなんじゃないですか?」
「っ…」
「骸、ヒバリさん!!」

ボンゴレが咎めるように言うも、気にしない。

「…手は出してませんよ」
「それでも駄目だ」
「まったく、君は我が儘…」
「危ない!!」

ルルーシュ・ランペルージに向かってきた何がをボンゴレが弾く。
それは金属音とともに床へ落ちた


「ぁ…ありがとう」

自分で発動させたトラップにすら対処出来ず、あまつさえボンゴレに護られた奴が憎い。

「ルルーシュ・ランペルージを庇って君が怪我する気ですか?」
「そんなつもりじゃ…」
「戦う力がないのなら、せめて邪魔はしないでほしいね」
「…」

ルルーシュ・ランペルージは何も答えない。

「ルルさん、気にしないでくださいね。ルルさんが戦えないのは仕方ないんですから」
「本当にそうでしょうか?」
「骸?」
「…」
「何が…言いたい?」

雲雀恭弥は完全に傍観者を決め込み、ボンゴレは訝しげに、ルルーシュ・ランペルージは少しだけ焦りの伺える顔で僕を見た。

「彼が…」

言いかけたとき、僕の言葉を遮るように洞窟に何かがぶつかる音が響く。

「僕を狙うなんて良い度胸だね」
「お前らこそ、敵の罠の真ん中で随分と余裕だな」
「…」

雲雀恭弥は暗闇からの攻撃を易々と防いだ。


「誰だ!?」

ボンゴレの声を合図にしたように、壁の灯りに薄暗い火が灯る

「死ぬ気の炎…」
「そうだ」

随分と離れた位置にその男はいた。

「俺は電光のγ」

「その服はミルフィオーレの…白蘭の敵討ちなのか?」

「おいおい、俺はあんな奴の為に敵をとろうとするほど暇じゃないぜ」

γと名乗った男が呆れたポーズをとる。
ふざけた印象とは裏腹に、その振る舞いに隙は無い。

「じゃぁ何なんだ!?」
「我らがジッリョネロファミリーの姫、ユニ様の為に」

「…ジッリョネロ?」
「ミルフィオーレは2つのファミリーが合併して出来たと前に教えたでしょう?」
「そ…そうだっけ?」
「ボンゴレ…」

敵対組織の構成を完全に忘れているボンゴレに対して呆れ以外の言葉がない。
何で君はいつもそうなんですか?
まあ、そこが可愛いんですけど。

「君が誰であろうと構わない。咬み殺すだけだからね」

トンファーを構え、今にも飛びかかろうとする雲雀恭弥をボンゴレが止めた。

「ダメです!!クロームが捕まってるんです!!」
「流石はボンゴレ10代目。お探しはこの娘かな?」

γが横に退くと、そこにはクロームがいた。

「クローム!!」
「おっと、動くなよ。彼女の死体を見たくなきゃ下手に近づくな」
「…」

γの言葉に再度クロームを見る。
どうやら檻のような物に入れられ、気を失っているようだ。

「これは捕獲と拷問用の匣でな…」
「拷問!?」

ボンゴレが驚きの声をあげる。

「あぁ。捕まえた相手をいたぶって情報を引き出し、殺す」
「最悪だな。まるで腐ったブリタニアのやり口だ」


ルルーシュ・ランペルージが言った。
恐怖からか否かは定かではないが、今まで何も言わなかったルルーシュ・ランペルージが口を開いた。
その言葉にボンゴレが驚く。態度には出さないが僕も、おそらく雲雀恭弥もだ。
最も、本人も何を口走ったのかと驚いていたが。

「ボンゴレ10代目と雲の守護者と霧の守護者と…お前は誰だ?」

γがルルーシュ・ランペルージを見る。
まるで、品定めをするように。

「彼は関係無い!!一般人だ!!」

ボンゴレはルルーシュ・ランペルージを庇うように前に立ち、叫ぶ。

「一般人が何でこんなところにいる?」
「ついて来たんですよ。無謀にも。そんな事より、早くクロームを離しなさい」
「残念だがそれは出来ない相談だな」
「なら、咬み殺す」

γが愉快そうに言う。

「おいおい、この娘は良いのか?」
「僕には関係ないね」
「駄目です、ヒバリさん!!」
「煩い。君の命令なんて…」
「契約を忘たんですか?」
「…」
「ヒバリさん」
「…」

ボンゴレを睨み付けた後、無言で雲雀恭弥はトンファーを下ろす。
ルルーシュ・ランペルージはあり得ない物を見るような目でそれを見た。


「何故…あの雲雀恭弥が…」
「煩い。君には関係ないことだ」

雲雀恭弥は鬱陶しげにトンファーを振った。

「クロームを返してくれ」
「無理だな」
「無駄ですよボンゴレ」
「…」

決断を促す。

「…なら、力ずくで取り戻す」
「そうこなきゃな。そこの右側に小さな扉があるだろ。大空の炎が扉を開けられる。だが、入るのはボンゴレのボスだけだ。
 それ以外の奴が入ったら容赦なくあの娘を殺す。サシで勝負して勝てたらあの娘は解放してやる」
「わかった。骸、ヒバリさん。ルルさんを頼む」
「ツナ…」
「…」







扉が開いた。