「…ナナリー?」 「沢田さん!」 スポーツ同好会に向かう途中、見知った背中を見つけて思わず声をかけた ここはルルさん達のクラブハウスと近いから、おそらく帰る途中だろう。 「1人?咲世子さんは?」 「咲世子さんはアッシュフォード家の用事で外出されました。」 「そっか…」 ルルさんは今日生徒会の用事があるから遅れると言ってたから、咲世子さんが帰ってくるまでナナリーは1人ということになる 「ねぇナナリー。スポーツ同好会に来てみない?」 「スポーツ同好会?確かお兄様の…」 「うん。ルルさんは生徒会でちょっと遅くなるみたいなんだけど、どうかな?」 「いいんですか!?でも、迷惑じゃ…」 「そんなことないよ。タオルとかドリンクとか、一緒に配ってくれると嬉しい」 そう言うとナナリーは嬉しそうに微笑んだ STAGE 12 笑顔 「実は、ずっと行ってみたかったんです」 車椅子を押しながら部室へ向かっていると唐突にナナリーがそう言った 「スポーツ同好会に?」 「はい、お兄様がよくお話して下さるんです。今日は山本さんが素振りを千回なされたとか、笹川さんがまきしむきゃのん?という技で備品を壊されたとか。」 「あはは…」 「中でも沢田さんのお話が一番多いんですよ」 「え!?俺!?」 「はい」 ふわりと嬉しそうに笑うナナリーを見ていると、悪いことでは無さそうだけど… 俺が同好会でしてることなんてせいぜいマネージャーみたいなことくらいだし、それも予算とか難しいことは全部ルルさんがやってくれている 「ダメダメな部員だって呆れてなかった?」 「そんなことありません。ツナさんが…あっ!」 「?ナナリー?」 「すみません!お兄様がそう呼ばれていたのでつい…」 言われてから初めて気が付いた ナナリーは今、俺をツナって呼んだんだ 「良かったら、これからはそう呼んで?」 「えっ!?でも、特別な呼び方なんじゃ…」 特別…なのかな 昔は、まだエリア11が日本だったころはみんなにそう呼ばれてた だけどもう、そう呼ぶ人は極僅かだ 「俺はナナリーのこと、妹みたいに思ってるよ。って…ごめん、俺が兄じゃ嫌だよね…」 ナナリーにはルルさんっていうお兄さんがいるのに、俺じゃ月とスッポンだ 自分の失言にへこんでいると、ナナリーの可愛らしい声が聞こえる 「そんなことありません!凄く、凄く嬉しいです。…ツナお兄様」 「え!?そ、それはちょっと照れるかも…」 「ふふっ…ではツナさんが本当に私のお兄様になってくださるまで、この呼び方は取っておきます」 「本当のお兄さんに…?」 「はい。」 どういう意味だろうと思ったけど、そこで言葉を切ったナナリーに「これ以上は秘密です」と言われてる気がしたから聞き出すことはしなかった 「付いたよ。ちょっと騒がしいから驚くかもしれないけど…」 言いながらドアを開けた途端にお兄さんと目があった 「遅いぞ沢田!」 「きゃ!!」 急な大声に驚いたのか、ナナリーの肩がビクリと揺れた 大丈夫だよと言うように、ナナリーの頭にそっと手を置く 「今日は山本もタコ頭もルルーシュも来んしどうしたのかと…ん?誰だ?その娘は」 「は、初めまして。ナナリー・ランペルージです」 「さては入部希望者だな!極限に歓迎するぞ!俺は笹川了平だー!!」 「違いますお兄さん。ナナリーは…」 「ツナ!!」 ドアの開く音と共に名前を呼ばれて言葉が止まった 「ルルさん?生徒会じゃ…」 「すまない…咲世子さんがっ…出かけた…らしい…俺はクラブハウスに戻るから…っ今日の部活は…」 「お兄様!」 「ナナリー!?」 全力で走ってきたのだろう、ルルさんは息を切らせながら必死に喋ろうとしていた 「どうしてここに…」 「ルルーシュの妹だったのか!兄妹で入部とは極限に歓迎だぞ!!」 「入部!?」 「違いますお兄さん。ナナリーは見学に…」 「ん?仮入部か?ボクシングは極限だから必ず入りたくなるぞ!」 「私にも出来ますか?」 「ナナリー!?」 「勿論だ!まずはフットワークだな!脇を引いて腕を勢いよく前に出すのを繰り返すんだ!」 「こう…ですか?」 しゅっと一生懸命ナナリーが腕を出す 「うむ!筋がいいぞ!今度は連続でやってみるんだ!!」 「はい!」 現状を理解出来ずに立ち尽くすルルさんは口から魂が出てしまいそうな感じだった 「すみませんルルさん…勝手にナナリーを連れてきてしまって…」 「いや…ナナリーが運動しているのを見るのは久しぶりで驚いただけだ…むしろ少しくらいこういうことをしたほうが健康にはいいのかもしれないな…」 「それに楽しそうだ」と言うルルさんは呆然とナナリーを見つめていた 「少し…疲れてしまいました…」 「うむ!無理は禁物だからな。最初はこのくらいだろう。休憩がてら部室を案内するぞ!」 「ありがとうございます」 お兄さんはタオルとスポーツドリンクを順番にナナリーに渡していく 完全に出遅れたと、ルルさんが悲しく空中に手を伸ばしていた だけど、ナナリーが嬉しそうに笑うと自然と笑顔になっていく 「…ありがとう、ツナ」 「え?」 「ナナリーが一人にならないように連れてきてくれたんだろ?」 「あ…はい。それもあるけど…」 確かに最初はそのつもりだった だけどそれなら、クロームを呼んでもよかったんだ そのほうがナナリーも気が休まるだろう なのにそれをしなかったのは… 「本当は、俺がナナリーと一緒にいたかったんです」 ルルさんは一瞬目を見開くと、凄く綺麗な笑顔で微笑んだ 「!」 心臓が跳ねる どうしよう。男の俺が男の人に見とれてしまった ナナリーパワー恐るべしっ!! 「ツナ?」 「そ、そうだ!酷いですよルルさん。ナナリーに何言ったんですか?」 焦って話題を変えようとしたのに、出てきたのはまたナナリーの話だった 俺のバカ! 「何を、とは?」 「ナナリーから聞きましたよ。ルルさんは家で俺の話ばっかりしてるって」 「なっ!?」 途端にルルさんの顔が赤く染まる 「何て言ってた?って聞いても教えてくれないんです。俺のダメダメな話でもしてたんじゃないですか?」 「ちが!待て、違うんだ!俺はそんなこと言ってない!お前のことと言うのはつまりだな…!」 ルルさんは普段の姿からは想像出来ない程慌てていて… 「…ぷっ」 「ぷ?」 「あ…あはは!冗談ですよ!まさかそんなに慌てるなんて…」 とうとうこらえきなかった 「…なっ!ツナ!!」 「すみません…だって…ルルさんが…はは…」 段々とお腹まで痛くなってくる もうすっきりと、さっきの鼓動のことは頭から消え去っていた 「ツナ!笑いすぎだぞ!!」 「すみません…でも…」 殺那、目の前が黒で覆われた ガバァっという音と、何かが迫ってきたような衝撃と共に 「10代目ー!!」 「えっ!?わっ、ちょ、獄寺君!?」 いつの間にか来ていたらしい獄寺君が、勢い良く抱きついてきたのだ 「どうしたの!?獄寺君!?」 「獄寺隼人!ツナから離れろ!!」 「よかったのなツナ!」 獄寺君が誰かに抱き着いたりしたら絶対に怒るはずの山本も、何故か嬉しそうにしていて助けてくれない 「何!?2人共どうしたの!?」 「おい!ツナから離れろ!!」 唯一助けようとしてくれたルルさんに手を伸ばすも、届く前にルルさんの手をお兄さんが掴んだ 「沢田ー!!俺は、俺は極限に嬉しい!!」 「お兄さんまでー!?何!?何があったの!?」 「離せ笹川!獄寺隼人をツナから引き剥がさなければ…!」 「頼む。…少しだけああさせてやってくれ」 「…え?」 「10代目!10代目ー!!」 普段と違う静かな声で言われた台詞は獄寺君の声にかき消されて、俺は聞き間違いかなと思った 知らなかったんだ あの日から、声を出して笑ったことが無かったなんて みんながそれを、気にしていたなんて |