眠い目を擦りながら体を起こす
段々と覚醒する意識のなかで聞こえてきたのはやけに騒がしい上階の音だった
普段はこんなことないに、ザワザワという声が部屋にまで聞こえてくる
確か上の階は2年の部屋になっているはずだ

今日がイベントだからだろうか?
そう判断しようとした時、嫌でも納得しなければなら無い名前が聞こえて思わず溜め息を吐いた

「六道」
そして
「雲雀」

また2人が何がやったのだろう
止めなければ生徒の人達に被害が出かねないと、椅子に掛けてあるワイシャツを手にとった

あの服に着替えるのは騒ぎを片付けてからだ
簡単に身仕度を整えると死ぬ気丸と手袋を忘れずに手にして上階へと向かった




STAGE 10  男女逆転祭り




これはまた…
てっきり廊下で戦闘でも始めたのかと思っていたら、俺の目に飛び込んできたのは2人の部屋から流れ出ている鮮血だった


ドアの向こうに殺人犯がいるんじゃないか?
六道や雲雀はどうなったんだ?
開けるのは危険だ。誰か警察呼んだ方が…


様々が意見が飛び交うなかで、おそらくではあるが犯人も犠牲者も分かっている俺は「驚かせてスミマセン。劇の練習なので大丈夫です」と言って回る

すると皆驚きと呆れ、そして落胆が交じったように文句を言いながら自室へと戻っていった
『な〜んだ』か…
殆んどの人はそう言って、まるで楽しみを奪われたかのようにつまらなそうな顔をした
事件なんて、起こらないにこしたこと無いのに

小さく溜め息を吐くと血の流れ出る扉の前に立つ
開けたくない
だが開けないわけにもいかない
覚悟を決めて、以前「いつでも遊びに来て下さい!!」と無理矢理教えられた暗証番号を入力しドアを開く
まっさきに視界に飛び込んできたのは、案の定頭から血を流して倒れる骸の姿だった

「…骸、お前血塗れで何やってるんだ?大体の想像は出来るけど」
「聞いてくださいよ、ボンゴレ!!雲雀恭弥ってば酷いんですよ!!
 僕が君の為にと用意したウエディングドレスの最終チェックの時に部屋に帰ってくるから、
 僕が好意で、善意で、今日の衣装など用意などしているはずも無い彼の為に『コレを貸してあげますよ』と優しく言ったら…
 ちょ、聞いてますか、ボンゴレ!?あぁ、聞いてますね。
 それでですね、コレを貸してあげますと言ったらその瞬間にトンファーで思いっきり僕の鳩尾を抉ったんですよ!!
 流石の僕もフラッときちゃいましてね、そうしたら後頭部に一発ですよ。クフフ、雲雀恭弥…恐ろしい男だ」
「俺はノンブレスでここまで言えるお前が恐ろしいよ。それに、その破られてる服なんかを着せようとしたらヒバリさんが怒るのは当然だろ」

冷めた視線を送りながら答える

「大体何処から入手したんだよこんな服」

骸が持っているウェディングドレスはまるで特注したかのような豪華さだ
パッと見だがサイズもぴったりな気がする…俺に
破れているナース服には、何処かの病院の名前が刺繍されていた
さらにウェディングドレスの横にある段ボールにはたくさんの女性物の服…それもコスプレ紛いのものばかりが入っている

「ボンゴレには何が似合うかなと思って色々命じて持ってこさせたんです!ちなみにウェディングドレスは職人に憑依して僕が一から作り上げた一品ですよ!!」
「何自信満々に言ってるんだよ。六道輪廻は使うなって言っただろ」
「必要な時にしか使ってません!!」
「うん、わかったから黙れ。すぐ済むから。」

死ぬ気丸を呑み込みグローブに炎を灯す

「何をしてるんですか?ハイパーモードではドレスの裾が燃えてしまいますよ?」

出血多量で足元のおぼつかない骸の頭を掴むとそのどす黒い炎を浄化した




「…ふう」

炎を浄化された骸が倒れたのを確認した後、俺は部屋に戻ってきた

「まさかウェディングドレスって…」

俺に着させてどうするつもりだったんだろう
骸のことだ
そのまま結婚式とか言いかねないけど…

「自分も女装しなきゃなんないこと忘れてんのかな…」

今日は男女逆転祭り
全校生徒ばかりか教師まで例外は許されない
まあ骸の考えてることなんていつもわかんないけどさ

…そう言えばドレスは憑依して作ったって言ってたけど他の服はどうやって手に入れたんだろう
わざわざ命じたと言ったからには憑依して手に入れた訳じゃ無い筈だ
だけど最近、犬や千種がそんなことをしてる様子は無かった

…考えても仕方ない
早くしないと獄寺くんと山本が来てしまうし
女性物の服を着るのに抵抗はあるがさっきのウェディングドレスよりはマシだと思うことにした

…あれ?この服どうやって着れば……
初めて手に取る女性ものの服に戸惑っていると机の上の携帯が震えだした
着信を告げるそれを手にとると、表示されているのは獄寺君の名前だった

「もしもし、獄寺君?」
『10代目!逃げて下さい!!骸に会っては…ぎゃー!!』
『こんな可愛い獄寺を外になんて出せないのな!』
『逃げて下さい10代目!骸に見られたら10代目のお身体が…テメェ野球馬鹿!どさくさに紛れて押し倒してんじゃねぇ!!』
『悪いツナ!今日行けねぇ!!』
『テメェ勝手に…あっ!!』

電話が切れる

「……」

御愁傷様獄寺君。
こうなることは何となく予想してたよ、うん。
けどどうしようかな…
服の着方も今一解らないし、1人でいてもつまらないだろう
いっそのこと獄寺君の言う通り部屋に篭るって選択肢もあるけれど、どうせなら楽しみたいと思ってしまう
日本にいられるのは卒業まで。
この地で過ごせる日を1日も無駄にしたくない
そう思っていた時、携帯が2度目の着信を知らせていた

「もしもし?」

焦って名前を確認せずに出ると、意外な声が聞こえてきた

『ボス?』
「クローム!?」
『ボスはこれから予定ある?』

クロームから電話がくるなんて初めてだ

「無いよ。クロームは?」
『ナナリーに会いに行く』
「そっか」

良かった
クロームとナナリーは仲がいいみたいだ

友達を知らないクロームに、俺はナナリーの護衛を頼んだ
それは純粋にナナリーのことを思ったのも確かだけれど、出来れば友達になって欲しい、
クロームにも友達の暖かさを知って欲しいという思いがあったから、ルルさんから聞いたときとても嬉しかったんだ

『ボスも一緒に来て欲しいの』
「え?俺も?」
『ナナリー、ボスに会いたいって。』

そう言えば、ナナリーとは始めてルルさんの家に行った日以来会ってない
いつもルルさんからナナリーの話を聞いていたから、まるで一緒にいるみたいに感じていたことに気付いた

「うん、俺もナナリーに会いたいな」
『生徒会室にいるって。今から一緒に…』
「うん…あっ…」
『ボス?』

しまった。片手にあるものの存在をすっかりと忘れていた

「ごめん、ちょっと待ってくれる?服の着方がよくわからなくて…」
『着方…?』
「なんかフリルがいっぱいで…」

すっかり焦った俺は電話を切ればいいのに話したまま着替えを再開する
けれど焦れば焦るほど上手く行かなくてファスナーまで咬んでしまった

「えっ、ちょ、どうしよ…」
『ボス、落ち着いて。どんな服なの?』
「えっと、ふわふわしたスカートにブラウスがつながって…あれ?これってワンピース?」
『じゃあまずはそれから。両手が使えるようにスピーカーモードにして?』

クロームの指示に従っていくと、あっという間に着替えは終わった。














「…」

なんだろう。ものすごく視線を感じる。
クロームとの待ち合わせ場所に向かう途中、すれ違った生徒の視線がちくちくと突き刺さる。
俺、なんか変だったとか!?
クロームの教えてくれた通りにしたつもりだったんだけど…
とにかく早く約束の場所に行こう。ダッシュで廊下を走り抜けると、特徴的は髪型が見えて安心した

「クローム!」

名前を呼ばれたクロームが振り向く
思っても見なかった光景に固まった

「ボス。」
「ク、クローム…その服は?」
「骸様のとっておき。貸してもらったの。」
「へえ…骸のとっておき…なんだ…」

クロームの服はTシャツにジャケットを羽織るといういたってシンプルなものだった。
ただ…そのTシャツの柄がくまさんだということを除けばだが。
せっかくかっこいいジャケットも、一緒に着てるTシャツのせいで残念な感じになっている

「…俺の服貸そうか?」
「これでいい。それよりもボス、可愛い。」
「え?うん。可愛いよ、クローム」
「私じゃない。ボスが。」
「…ごめん、嬉しくない…」

今俺が着ている服はミレイさんが用意してくれたものだった
なんでも俺に似合う服を見つけたから絶対今日着て来いと半強制的に渡されて、
女性ものの服なんて持ってない俺は断る理由も思いつかず、結局着ることになってしまった

童話に出てくる赤ずきんの衣装…
ふわふわのフレアスカートにふりふりのブラウス、その上にエプロンを着て赤いずきんを被るという普通ではありえない格好である
蛇足だが、ご丁寧にウィッグまで用意されていたため髪の毛もロングになっている。

もしかしなくてもさっき人目を引いていたのはそのせいか
ブリタニアの人たちは多分赤ずきんなんて知らないだろう。
ミレイさんが何故知っていたのかは分からないけど、同じ女装でも奇抜な格好をしている俺はみんなの目に異様に映ったってことかな…
なんか悲しくなってきたぞ。俺もう部屋に帰りたいかも。

「違う。見られてたのはボスが可愛いから。」
「そんなわけ…って、あれ?俺もしかして声に出してた?」

クロームがうなずく。
ダメだ、思ってることを口に出すなんてそうとうキてる

「早くナナリーのところ行こうか。ここなんか人目多いし…」
「うん。」

とにかく少しでも人のいないところに行きたい
そう思って俺は生徒会室へと急いだ
すっかり忘れてたんだ。ナナリーがいるなら当然あの人もいるだろうってことを。






何度かドアをノックするも、中の騒がしい音にかき消されてしまう状況に肩をすくめた俺たちは失礼だと思いつつドアを開けた

「失礼しま…」
「なっ!?ツナ…!?」
「…え?」

ナナリーがいると思われたそこには、凄く綺麗なドレスを着たルルさんが立っていた。
いや、綺麗なのはドレスじゃなくて…

「キャー!!すっごく似合ってるわよ沢田くん!!やっぱり私の目に狂いは無かったわ!!」
「ホント可愛い!!会長が選んだんですか!?」
「赤ずきんよねそれ…」

ルルさんに話しかけようとした時、生徒会の先輩達(みんな女の人だ)が一斉に話かけてきた
いつの間にか隣にいたはずのクロームはナナリーの元へ行っている

「本当、良く似合ってるよ沢田君!ほら、ルルーシュも何か一言無いの?」

スザクさんがルルさんを引っ張ってくる
うわあ…近くで見ると本当に…

「そ、その…可愛いな。良く似合っている…」
「ルルさんは凄く綺麗です。」

赤くなりながら言うルルさんに苦笑しつつ答える。
きっと女装が凄く恥ずかしいんだろう。顔が真っ赤だ。


「…嬉しくないな」
「俺もです」
「そこの美女美少女2人!見詰め合ってないで並んで見せて!!」
「会長!別に俺たちは見詰め合ってなんか…」
「いいわー!すっごくいい!!写真部呼んできましょう写真部!!」
「会長!人の話を…!!」
「あーあ、残念。美人のお兄様と沢田さん、私だけ見られなくて。」


「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」


「あら?皆さんどうしたんですか?」


ナナリーの言葉に空気が凍った
そうだ、ナナリーは目が見えない。
それなのに、なんてことをしてしまったんだろう

「ナナリー…」
「リセーーーーット!!」

クロームが何か言いかけたのを、会長さんの声が遮った。

「甘かった!ミレイさんとしたことが…」
「え?」
「真の男女逆転祭りを目指すのであれば、姿だけでなく中身も逆転するべきであった!」

会長さんは咳払いをすると、ルルさんの顎を持ち上げて口説くように言う

「なあ、ルルーシュ。そうだろ?」
「え、あ…あ…そ、そうよね、会長…」


「わあ!」


ナナリーが嬉しそうに声を上げた
皆それを見て、次々に言葉使いを逆転させていく。

よし、俺も!

「ナナリー、来るのが久しぶりになってごめんなさい」
「沢田さん!気にしないでくださ…あ、いえ!気にしないでくれ。今日来てくれて、とっても嬉しい!」

嬉しそうに笑うナナリーを見て嬉しくなる

「ナナリー。その服、ルルーシュのか?」
「うん!クロームさんはどんな服?」
「僕のは骸様のとっておきなんだぜ?」
「Tシャツにジャケットを羽織ってるのよね」

逆転した言葉遣いは難しくて、俺たちはたどたどしく会話をする
けどなんだかそれも面白くて自然と笑顔になっていた

「ナナリー、ツナ。何を話してい…るの?」

会長さんから逃げ出してきたルルさんが、言いづらそうに語尾を変えた

「お兄様!」
「クロームの服をナナリーに説明していたの」

俺がそういうとルルさんはクロームの服を見て返答に困った顔をした

「その…変わったTシャツね。くま柄だなんて…」
「骸様のとっておきなんだぜ」
「六道の…」

ルルさんが哀れみの目をクロームに向ける
うん、そのTシャツは俺も骸の趣味を疑います。けどクロームは意外と気に入ってるみたいなんです。
てかクローム、その言葉遣いちょっと変だよ間違ってるよ。

「ルル子様。お茶のご用意ができました」

その時、執事服を着た女性がお茶を運んできた

「ルル子?」
「日本では、女性の名前の最後に子を付けることが多いんです」



…っ!!



「へえ〜」
「そう言えば、咲世子さんも…」
「はい」



皆が感心したように何か話してるのが、どこか遠くの出来事のように感じられた



だって



俺の記憶にいるあの子の



あの子の、名前にも…



「京子ちゃん…」
「えっ…?」




何も見えない


何も聞こえない


何もかもなくなった空間にただ一人置き去りにされたような感覚が襲う


あの時の光景がフラッシュバックしそうになった瞬間、誰かに腕を引っ張られて現実世界へと押し戻された

「逃げるぞツナ!!」
「ルルさん…?」

「あ!ルルーシュ!待ちなさーい!!」


ルルさんは俺の手を握るとそのまま生徒会室を出て裏庭へと走る
途中で会った生徒に俺たちのことを聞かれたら逆方向へ行ったと伝える様に言っていた様な気がしたが、それを気にする余裕はなかった


俺の頭の中は、京子ちゃんで埋め尽くされていたのだから










「すまない…無理矢理…連れ出す様なことをして…」

ルルさんが息を切らしながらそう言った

「いえ…でも…どうして、俺も…?」

対する俺も結構辛くて同じように息を切らせながら答える

「!それは…お前が…」
「俺が?」
「…聞いてもいいか?」
「?何をですか?」

質問を質問で返すなんてルルさんらしくない

「“京子”というのは…お前の…」


心臓が、音を立てた



「どう、して…」


ルルさんから出てくるはずの無い名前に、頭が真っ白になる


「…さっきそう言っているのが聞こえたんだ。」



あの時だ


執事服を着た女性が、名前のことを話していたとき



「京子ちゃん、は…」


声が震える。
“あの時”から、京子ちゃんのことを俺が話すのは初めてで。
言わなくちゃ。大丈夫。ルルさんには、ちゃんと言える。
いつも心配してくれるルルさんだから、俺から伝えなきゃいけないんだ。


「お兄さんの…了平さんの妹で…」


目頭が熱くなる
泣いてはいけない。拳に強く力を込めた


「大切な、大切な友達で…だけど、7年前に…亡くなりました」


好きだった。大好きだった、京子ちゃん。
俺は臆病で、ダメダメで。想いを伝えることは出来なかったけれど。
本当はいつか必ずって、ずっとずっと思ってたんだ。

だけど、もう彼女はいない。

俺のせい。俺が、護れなかったから。





「…ごめん」
「え…?」


ルルさんの腕が回されたと思うと、そのまま優しく抱きしめられる

「ルル、さん…?」
「言いたくないなら聞かないと言ったのに、喋らせてしまった」

それは桜の木の前で交わした会話

「違います。今のは俺が…」

ルルさんの腕に力が篭る。
暖かくて、優しくて、我慢していた涙が溢れそうになる。


「…ツナ」
「ルル、さ…」


ダメだ、ダメ。泣かないって決めたんだ。
俺が泣くのは卑怯だから、誰にも泣いてる姿は見せないって。

イタリアにいた時、1度だけ泣いているところを骸に見られたことがあった。
骸はその時、ここから―マフィアの世界から、俺を連れ出すって言ってくれた。
だけどそれじゃダメなんだ。俺はマフィアになるってあの時自分で決めたんだ。

だから泣かない。心配させる原因は作らない。





なのに、そう決めたのに。

ルルさんがより一層力を入れて抱きしめたとき、俺の目から涙が零れ落ちた



「っ…!!」



一度こぼれ出した涙は止まらなくて、地面にしみを作る


「…っ…ふっ…!」


ルルさんは何も言わずに、ただ俺を抱きしめてくれた。



まただ。また俺は、泣くことで現実から逃げてる。


ルルさんの優しさに甘えて、被害者の様に涙を流して


最低、だ



「ツナ、俺は…」



ルルさんが何か言っているのを意識の片隅で理解する


だけど本当に小さく囁かれた言葉は、風の音にかき消された


「俺は、ブリタニアをぶっ壊す」