意識が飛びそうになっていた時、頭に感じた衝撃に顔を上げる。

「痛いですよ」
「痛くない。それよりルルーシュ、今寝てたでしょ」
「寝てませんよ」
「いいや、寝てた!あんたは副会長なんだからね。もう少し自覚を持ちなさい」

会長が丸めた書類を振り上げるので、それを片手で遮る

「わかってますって」
「本当にもう…」
「それより会長、他の奴らは…」
「生徒会の仕事をとっくに片付けて帰ったわよ」
「…」
「まったく、学校休んで何してんだか」






STAGE 4 雲雀恭弥






「終わりました」
「お疲れ〜。ルルーシュはやれば出来るんだから普段からやればいいのに」

他の奴らは帰ったと会長は言っていた。
なら、チャンスは今しかない

「会長。この間の転入生達の事なんですけど」
「ボンゴレの?」
「えぇ」

ツナ達がマフィアだということは、俺と会長と会長の祖父…つまり学園長だけの秘密になっている。
俺が知ってるのは、ナナリーのクラスにも転入生が来るから知っておくべきだという会長の配慮だった。
まあ、言われなくても自分で調べていたのだが、こうしてオープンに会話をできるのは有り難い。

「ルルーシュのクラスには…5人の転入生が来たんだったわね」
「えぇ。幹部クラスやそれに準じる奴らがゾロゾロと。黒の騎士団の件があるこの時期にですよ。一体何なんですか?」
「う〜ん、私もよくは知らないけど、10代目の希望らしいわよ」
「10代目…沢田綱吉のですか」
「そうそう」
「…」
「ルルーシュ?」
「ちょっと気になっただけですよ。仕事も終わったんで帰りますね」
「ナナリーによろしくね」
「はい。失礼します」


「…またか」

毎度毎度飽きずによくやると本気で思う。
鞄を取りにクラスに戻れば、俺の机の上にある彼岸花。
昨日はゴミ、一昨日は菊、一昨々日はガラクタ。
その前は…思い出すのも面倒くさい。
動物の死骸や残飯でない辺り、相手はまだ優しいのかもしれない。

だが、こんな嫌がらせに俺は屈したりしない。
それに、こんな姑息で陳腐な嫌がらせをする相手に心当たりがある。
というか、そいつ以外考えられない。
だが、証拠が無い。この俺に証拠をつかませないあたりは、流石幹部だと認めてやろう。

「はぁ…」

ため息をついた後、鞄を持つと教室を出た。
クラブハウスには行かず、学園を出て疎開へと向かう。

その途中、見たくない相手を見てしまった。
アッシュフォードの制服を着ずに、黒い学ラン(というらしい)を羽織り、非常に好戦的で強く、
ボンゴレ10代目のボスであるツナの守護者の雲雀恭弥…が不良らしき奴らをトンファーという武器で殴っている所を。

何の躊躇いもなく放たれる一撃に相手は簡単に地に伏す。

その光景に俺は少なからず恐怖を覚えた。
KMFで敵を倒し、殺すことは何度もやってきたし、これからもやっていくだろう。

けれど、純粋な俺の力は…?

ギアスは本来は俺の力ではない。
この力がなければブリタニアとの戦争なんて先の先の話で、最悪夢物語だったはずだ。

俺はギアス無しであの不良達と戦うことなど出来ない。
簡単にやられることは俺でなくてもわかる。
不良相手にチェスで勝負だなんて言っても無駄だ。

頭脳戦だってこのような場面では無意味だ。
やがて出来上がった不良の山を、つまらなそうに雲雀恭弥は見た。


『ヒバリさんですか?ヒバリさんは…怖いですよ。凄く怖いです』
『ツナと一緒にイタリアから転入してきたんだ。仲は良いんだろ?』
『いゃ、よくないっていうか…俺と戦いたがっているっていうか…とにかく仲は良くないです。まぁ、骸ほどじゃないですけど』
『六道骸?』
『はい。骸とヒバリさんは物凄く仲が悪いんです』
『確かにそう見えるな。でも何故…』
『ヒバリさんは骸に戦いで負けたことがあるんです。それがヒバリさんの中では許せない事みたいで…』
『あぁ、そういう事か』
『あの…俺が喋ったことは誰にも言わないでくださいね』
『わかってる。言わないよ』
『よかった。バレたら俺がヒバリさんに殺されるから…』


唐突に思い出した会話に嫌気がした。
にわかに信じがたい話ではあるが、雲雀恭弥はボンゴレ10代目の守護者でありながらボンゴレに属さず、自分の意志のままに動くという黒の騎士団の調べは正しかったのだ。


不良達相手に暴れて満足したのか、雲雀恭弥が振り向いた。

目が合う。

目を細め、雲雀恭弥は笑った。

「久しぶりだね。えっと…」
「ルルーシュ・ランペルージだ。転入してきてどれくらいになると思ってるんだ?いい加減覚えろ」
「君の名前なんかに興味なんて無いよ」
「へぇ。じゃぁ何になら興味があるんだ?」
「君には関係無い」
「あるだろ」
「煩いな。咬み殺すよ」

トンファーを構える様子に、それが嘘ではないことを確信する。
血の気が引いていくのがわかった
だが、この男には聞くことがある

「…お前は日本の出身だったな」
「それが何?」
「今のエリア11と呼ばれるこの国をどう思う?アッシュフォードの制服でなく、日本の学ランを着ているのには、意味があるのだろう?」
「別に。君は何が言いたいわけ」
「祖国を踏みにじられて悔しくはないのか?ブリタニアに復讐したいとは思わないのか? …黒の騎士団に入ろうとか思わないのか?」
「思わない」
「…何故だ?」
「日本だろうとエリア11だろうと僕のやる事は変わらないからね。それに、あの変な仮面の奴が…」
「ゼロだ」
「誰であろうと下につくなんて嫌だし、アイツが僕より強いとも思わない」
「…」
「それとも君は僕に黒の何とかに入って欲しい理由でもあるのかな?」
「そんなものはないさ。ただ…聞いてみたかっただけだ」
「ふぅん」
「随分印象が違うな。ツナに誰彼構わず武器を振り回すと聞いていたが…」
「気に入らない群れを咬み殺すだけだよ」
「なら、俺は気に入られてるわけか」
「違う」
「なら何故だ?」
「君は沢田綱吉が好きなの?」
「なっ…」

唐突な質問に驚く。
雲雀恭弥がそのようなことを聞いてくるなんて完全に予想外だった。

「好きなの?」
「違うっ!男相手に好きとか…そういう感情は…」
「ふぅん」

至極楽しそうに雲雀恭弥が笑う

「…何故そんなことを聞く?まさか、お前・・・」
「言葉には気をつけたほうがいいよ。こいつ等みたいになりたくないならね」

言いながら雲雀恭弥は地面に倒れている不良達を踏みつける。
「で、何?」
「お前、六道骸と仲が悪いんだったな」

言って、後悔した。
六道の名前を出した途端、雲雀恭弥の雰囲気が変わる。
不良達を倒していた時とも、直前まで俺と話していた時とも全く違う。
ツナの豹変振りにも驚いたが、目の前の雲雀恭弥の豹変振りにも驚く。
元々傍若無人な奴だとは思っていたし、学園内外でも随分と好き勝手に行動していたのは知っている。
それでも、明らかな殺気を纏って目の前にいる相手を俺は知らない。

「六道・・・骸」

風を切る音と同時に俺の目の前にトンファーが振り下ろされた。

「っ・・・」

「聞きたくない名だね」

手加減…されているのであろうその攻撃はコンクリートを簡単に抉った。

「あの男と僕が仲が悪いだって?聞くまでも無いだろう?今度僕の前でその名前を出したら…咬み殺すから」

それだけ言うと雲雀恭弥はトンファーをしまった。

「見逃してくれるって事か?」
「弱い草食動物に興味は無いし、君を殺してもあいつを喜ばせるだけだからね」
「…俺は当て馬って事か?」
「そうだね」
「最悪だな」
「ならコレをあげるよ」

口の端を持ち上げ、笑いながら雲雀恭弥が言うと、鳥が羽ばたいて口に咥えていた封筒らしきものを落とした。

「僕を退屈させないでね」

それだけ言うと雲雀恭弥は振り返る事無く立ち去った。


クラブハウス内にある自室で封筒を開ければ中身は写真で、それを見た途端思わず握りつぶした。

「あのパイナップルめ…!!」

写真に写っていたのは俺の机に嫌がらせを仕掛けている六道骸だった。
予想通りだとはいえ、許す事など出来ない。

「証拠を掴んだぞ、六道骸」

俺は声を上げて笑い、奴にする復讐を一晩中考えた。



「煩いぞルルーシュ」
「黙れ魔女。俺は今忙しい」