失態だ!! もっと早くに気付くべきだった。 STAGE 7 友達 リビングへと続く階段を駆ける 普段なら、帰宅後真っ先に向かうのだが、今日は自室に真っ直ぐに帰った。 ナナリーの友達が来ていたからだ。 ナナリーが友達を家に連れてくるのは初めてで、大切な友達だから紹介したいと言うナナリーにこの上ない喜びを感じたのは記憶に新しい。 せっかくだから私服に着替えて、菓子の一つでも持ってから挨拶しようと思っていた。ついさっきまでは。 早く帰宅した俺を迎えたのは、ベットの上に我が物顔でくつろぐ魔女だった 「おかえり、ルルーシュ。今日は早いんだな」 普段なら小言の1つや2つ言ってやるのだが、今日は特別だ。 「今日はナナリーの友達が来るからな。会ってほしいと言われているんだ」 「あぁ。あの女か。なかなか面白い奴だ。今はナナリーと仲良く遊んでいるぞ」 鞄を置きながら、聞こえてきた言葉に耳を疑った 「…ちょっと待て。会ったのか?」 「あぁ」 「部屋から出るなと言ってあっただろ」 「煩い。私は私のやりたいようにやる。お前に指図されるいわれは無い」 「C.C.!!」 机を叩きつけて叫ぶが、全く動揺しない。 「安心しろ。私とお前は共犯者だ。お前の不利になるような真似はしない」 「お前に勝手に出歩かれる事が既に俺にとっての不利益だ!」 「安心しろ。ヘマはしない」 「そういうことじゃ…兎に角、お前は部屋から出るな!!」 「ピザはどうなる?」 「そんな事は俺には関係ない」 C.C.はムッとしたように俺を睨む 「大体、毎日毎日ピザ臭くて叶わないんだ。少しは我慢しろ」 「そんなのお前には関係ないだろ」 「ある!!誰の部屋だと思ってるんだ!?」 「私の・・・」 「俺の部屋だ!!お前の部屋なんかじゃない!!」 「私がここに来たときからこの部屋は私のものだ」 「違うといっているだろうが!!あぁ、もう!!俺はナナリーの友達に会ってくる。ここから動くな。良いな?」 普段は流せる言葉にまで反応してしまう。 冷静になれ。今はこの女に構っている暇は無い。 「安心しろ。あの女にはもう会わない」 「珍しいな。お前が俺の言う事を聞くなんて。明日は雪か?」 「黙れ、ルルーシュ。私はあの女に必要以上に関わりあいたくないだけだ」 「何故?」 「妙な力を持っている。ギアスとは違う、私でも感じた事の無いような奇妙で強力な力だ」 「…」 「会うなとは言わないが、会うなら気をつけろ。お前に死なれては困る」 「わかっている」 「それにしても・・・変わった髪型の女だな。今はあんな髪型が流行ってるのか?」 その言葉にドアに向かっていた脚が止まった。 「変わった・・・髪型?」 「あぁ。何だったか・・・前に見たような気もするんだが…」 「何だ?思い出せ!!」 「そう急かすな。確か・・・パイナップルとかいう果…おい、ルルーシュ!?」 最後まで聞かずに部屋を飛び出す。 C.C.の驚いたような声が聞こえた気がしたが、俺は全く気にしなかった。 失態だ!! 俺とした事が、奴がナナリーに手を出す可能性を考えなかっただなんて!! 頼む、無事でいてくれ、ナナリー!! 「ナナリーっ!!」 実際には開ける必要も無いリビングの自動扉を思いっきり開け、飛び込むように部屋に入る。 「ど…どうなさったんですか、お兄様?そんなに慌てて・・・」 ナナリーが驚いた顔で振り返る その姿に安心したものの、直ぐ傍に無表情で座った女を視界に入れることでそれも消える 「六…道…」 「…」 大きな紫色の瞳が俺に向けられる。 悪意が感じられないから余計に気味が悪い。 「六道!!ナナリーから離れろ!!」 反応を示さず、ただ俺を見る女の腕を掴み無理やり立たせる。 「来い、六道!!」 「え、お、お兄様!?」 困惑するナナリーを残し、女を半ば引きずるように隣の部屋へと連れて行った 「どういうことだ?」 「どう…って?」 「ふざけるな!!お前に憑依能力があるのは知っている!ナナリーに近づいて何をしようとしている!?」 怒鳴るように喋るが、女は感情を全くと言っていいほど見せない。 「ナナリーと友達になるの」 女の口から出た言葉に俺は唖然とした。 「ふ…ふざけるなよ。ナナリーと友達になる?六道、お前とナナリーを友達になんてさせないからな!!」 「違う」 「?何が違うんだ?」 「私は、骸様じゃない」 「は?」 「私は、骸様じゃないよ」 「嘘をつくな。俺は他の奴らみたいに騙されたりはしないぞ。言え。ナナリーに近づいて何をする気だった?」 「ナナリーを…護る」 「護る…だと?ふざけた事を言うな!!」 「…信じてもらえないのね」 「当たり前だ。さぁ言え。何故ナナリーに近づいた?」 「ナナリーを護るの。ボスの命令で」 確かにツナはこのクラブハウスへ来た事はあるし、ナナリーとも仲良くなってはいた。 ナナリーとツナを会わせたのはいざという時にツナの…ボンゴレの力ならナナリーを護る事が出来るだろうと思っていたからだ。 だが、ツナにその事を話してはいない。 一見この女の言っていることは筋が通っているようにも感じるが、よく考えれば様々な所に矛盾を感じる。 ツナがナナリーに護衛をつけたとすれば、何故俺に言わなかったのか? 何故俺の知らない女を護衛としてつけた? そもそも、ナナリーに護衛が必要だと感じたのは何故だ? 考え出せばきりが無いほどの疑問が沸き起こり、それは目の前の女の言葉を真実ではないと思わせる要因だ。 「嘘をつくな」 「…」 「そんな事が信じられるわけないだろう、六道骸!!」 「痛いっ!!」 腕を掴んでいる手に力を入れれば女は声をあげた。 「止めてください、お兄様!!さっきから何を仰ってるんですか?」 その声に今まで部屋に入ってこなかったナナリーが驚いて部屋に入ってきて、俺を咎める。 「ナナリー、こいつは六道骸だ」 「ムクロ?彼女はクロームさんです」 「違う。幻術でそう見せているだけだ。こいつは俺と同じクラスのボンゴレボス10代目の霧の守護者、六道骸だ」 「違います!!」 「ナナリー?」 声を荒げて叫ぶように言ったナナリーに俺は驚いた。 「彼女はクローム・髑髏さんです。私と同じクラスの転入してきた私の大切な友達です。これ以上クロームさんを疑うのは止めてください」 ナナリーの静かな怒りを確かに感じる。 だが、引く事などできない。 これはナナリーの為なのだから。 「しかし、ナナリー…」 「クロームさんは真面目で優しい方です。毎日きちんと授業に参加していましたし、私と沢山お喋りしたり遊んだりしました」 ナナリーの言葉に俺は息を呑んだ。 「今日だってきちんと授業に参加していました。お兄様の勘違いです。クロームさんはロクドウムクロという人ではありません」 今日…今日だと? 今日…今日は確か…思い出せ!! 「上手く避けたね。でも今度はそうはいかない」 「毎日、毎日・・・いい加減にしてくれませんかね?」 「なら君が死ねばいい。そうすれば僕も毎日君と戦わなくてすむ」 「僕を亡き者にしてボンゴレと宜しくやろうという魂胆ですか?許せません!!許しません!!」 「僕はさ、君の事は大嫌いだけど、その君の想像力・・・というか、妄想力にだけは敬服するよ」 「それは光栄ですね」 「君は馬鹿なの?褒めてないよ」 「煩いですよ、雲雀恭弥。ボンゴレにこのスキルの使用を禁止されていなければ一瞬で終わるんですがね」 「君の一瞬は一瞬じゃないけどね」 「昔の事をネチネチと・・・本当に君は癇に障りますね」 「君に言われたくないよ」 「本当に邪魔な男ですね。ここで殺してしまいましょう」 「やれるものならやってみなよ」 そうだ。 今日は珍しく授業に出席した雲雀恭弥と六道が恒例行事の戦闘を繰り広げて…ツナが間に入って、それが終わると雲雀恭弥はどこかに行ってしまった。 六道はこれも毎度の事ながらツナに怒られて、教室で一人でジメジメしていた。 いた。 あれは確かに六道骸だった。 じゃぁこの目の前の女は何だ? 一体、何者だ? ナナリーとクロームが遊んでいるのを眺める。 六道と違うことは分かったが、全くの無関係だと片付ける事はできない。 「こう…やるの」 「わぁ、上手ですね」 「そう?」 「えぇ。私はそんなに上手には出来ないので羨ましいです」 「ナナリーも練習すれば出来るようになるよ」 「そうですか?嬉しいです」 クローム・髑髏。 ボンゴレ6大幹部で霧の守護者である六道骸の忠臣の1人。 それ以前の過去は抹消済み。 以前から六道骸の事を中心にその関係者を黒の騎士団のに調べさせてはいた。 だが、今や最大の情報網を持つと言っても過言ではない黒の騎士団の情報網を使っても彼女の事はこの程度しかわからなかった。 元々六道骸とその関係者についての情報は少ない。 奴の忠臣が城嶋犬、柿本千草、クローム・髑髏である事。 クローム以外が脱獄犯である事。 何らかの事情でツナに従っている事。 マフィアでありながらも異常なまでのマフィア嫌いであり、強い破壊願望がある事。 六道骸とクローム・髑髏は六道輪廻という特殊な能力を有している事。 その程度の情報しか俺は持ち合わせていない。 外見から日本人…またはアジア系の出身である事は想像できる。 しかし、六道の例もあるので断言は出来ない。 あいつはアレでいて、生粋のイタリア人だ。 六道骸という名で、あの外見でイタリア人なんて馬鹿げている。 クローム・髑髏は六道骸のアナグラムで、明らかに本名ではない上に、六道と似た外見、同じ能力を持っている存在を警戒するなというほうが無理だ。 ナナリーが友人だと言い張り、話を聞いた限りでは特に何か問題があるわけでもないようだったが、 どうしても信じきれなかった俺はツナに電話をして、彼女が言っていることが本当かどうか聞いてみた。 俺はてっきり、クロームの言っている事は嘘だという答えが返ってくるものだと思っていた。 いや、信じて疑っていなかった。 全く。 だが、返ってきた答えは予想に反し、肯定だった。 『確かに俺がクロームにナナリーを護って欲しいと言いました』 『なっ…』 『少しでもナナリーの助けになればと思ったんです。ダメでしたか?』 『いや、駄目ではないんだが、彼女は六道骸の・・・』 『確かに彼女は骸の信頼する数少ない存在で、彼女も骸を尊敬してます。ルルさんが心配に思うのも当然だと思います。でも、俺は実はあんまり心配してないんです』 『何故?』 『確かに俺はクロームにナナリーを助けて、護って欲しいと言いました。でも、俺は友達になってくれとも、仲良くしてくれとも言ってないんです』 『…』 『確かに骸は狡猾で用意周到です。本気で策を練って来られたら俺でも敵わないかもしれない。でも、多分ナナリーには何もしません』 『何故そんな事が言い切れるんだ?』 『骸は俺の行動なんてお見通しです。本気でクロームに危害を加えるつもりがあるのならば、骸はクロームを傍になんて置きません。 置く必要もありません。骸にとっては俺達からナナリーを奪うのなんて簡単なんです。 でも、骸にとってナナリーに危害を加え、俺達を脅すのは本意ではないし、それによって何の利益もありません』 『…』 『だから多分平気です』 『…ツナ。最後に1つだけ教えてくれ。彼女は…クロームはお前と六道だったらどちらの言う事を聞く?』 『…骸です』 『わかった。ありがとう』 「おい、女」 「…クローム」 「お兄様、そんな言い方をしてはいけません」 「…クローム。俺の質問に答えろ」 「…何?」 ギアスを使えば六道が何を企んでいるのか…それとも本当に何も企んでいないのか聞くことが出来る。 だが俺はあえてギアスを使わなかった。 ナナリーがこの場にいるからではない。 ここで使うのは得策ではないと判断したわけでもない。 「…」 俺を見つめる紫の瞳。 善意も悪意も何も宿さない瞳。 正直、少し気味が悪いな。 「…何?」 「お前はナナリーを護ると言ったな。それはツナに命令されたからか?それとも、お前の意思か?」 「始めはボスに言われたからだった。でも、今はナナリーは大切な友達だから…護るの」 「そうか。それなら良い」 クロームの回答に完全に納得したわけでも、完全に彼女を信用したわけでもなかった。 でも、今はそれでもまだ及第点だ。 今は。 「後は…世界が変わりさえすれば…」 夜も遅くなり、寮に住むクロームは帰らなければいけない時間になった。 部屋にナナリーを残し、クラブハウスの入り口までクロームを見送りに出る。 「おじゃましました」 「また来いよ。ナナリーも喜ぶ」 「…ルルーシュ、気持ち悪い」 「なっ!?」 「何でいきなり優しくなるの?」 当然といえば当然であろう疑問にも、言葉をオブラートに包むという事を全くしない彼女の言葉で聞けば理不尽ながらも癪に障る。 六道と似ているから余計にそう思うのかもしれない。 …まるで八つ当たりみたいじゃないか。 「…全てではないにしろ、俺はお前を信じたんだ。その位は言うんじゃないか?」 きょとんとした顔で彼女は俺を見た後、少し何かを考える素振りを見せた。 「…私を、信じてくれるの?」 「全てではないがな」 「ありがとう」 素直に返された礼に驚いた。 「じゃぁ、行くね」 「あぁ」 クロームはそのまま寮の方へと小走りで帰っていった。 「クロームさんは帰られましたか?」 「あぁ。帰ったよ」 部屋で俺の帰りを待っていたナナリーにそれだけ答えた。 「…ナナリー」 「はい、何ですか?」 「クロームは良い奴だったな」 「…はいっ」 ナナリーが笑った。 何故彼女を信じようと思ったのかは俺自身よくわからない。 ツナの言葉がきっかけなのかもしれなかった。 『骸は狡猾で用意周到です。本気で策を練って来られたら俺でも敵わないかもしれない。でも、多分ナナリーには何もしません』 『骸は俺の行動なんてお見通しです。骸にとってナナリーに危害を加え、俺達を脅すのは本意ではないし、それによって何の利益もありません』 「何だかんだ言ってもツナはあいつを信じているんだな」 普段どんなに冷たく接していようとも、ふざけていても、無関心に見えても、それでもツナとボンゴレの幹部達の根底には俺には到底築くことの出来ない強い絆と深い信頼関係が存在する。 正直、俺はその関係が羨ましいよ。 黒の騎士団はゼロを筆頭とするテロリスト集団。 幹部の誰もゼロの事を知らない。 ゼロを護るのはゼロと利害関係が一致しているから。 黒の騎士団にはボンゴレのような絆も信頼関係は無い。 あるのは羨望の眼差しと尊敬と畏怖の念。 それでもいい。 甘い感情はあの日に捨てた。 俺はゼロ。 世界を壊し、作る男だ。 俺はあの日にブリタニアをぶっ壊すと決めたんだ。 「ん?どうしたんだ、ルルーシュ」 眼下に寝そべるこの魔女と共に。 |