『ツナくん』

俺は、彼女が好きだった

『お兄ちゃんも一緒に遊ぼうよ』

あの時は何のとりえも無くて、力も無くて

『見て見て、桜だよ』

でも、あの太陽みたいな笑顔を、ずっと見ていたいと思ったんだ

『ショートケーキっ!!』

だから、

『ツナくんが旦那様で、私がお嫁さんなの!』

なのに

「……レ…」

『ねぇ、遊ぼうよ』

「……ゴレ…」

『助けて…ツナくん…』

京子ちゃんっ!!」

伸ばした手は少女には届かず、そこで俺は目覚めた。








STAGE 0  過去の記憶 









「大丈夫ですか」

「骸・・・」

ボンゴレ本部の広大な敷地の中にある小山で読書をしていたはずなのに、いつの間にか眠ってしまったらしい。

「泣いていたんですね」

「ぇっ・・・」

骸に言われて俺は、初めて自分が知らないうちに泣いていた事に気付いた。

「嫌な夢でも見たんですか?」

嫌な…夢…。

そうかもしれない。

幸せで、残酷な夢。

「日本に行くのが怖いですか?」

「…少し、怖い。あそこには良い思い出も悪い思い出も沢山有るから」

俯いたまま、骸の顔を見ずに答えた。

泣いている姿なんて見られたくない。

誰にも。

「僕は少し楽しみですよ」

「なんで?」

予想外の言葉に顔を上げてしまった。

骸が苦笑する。

俺は慌てて涙を拭った。

「君が幼少期を過ごした場所をこの眼で見れることが嬉しいんです」

そう言って骸は、自分の紅い眼を指差して笑う。

「…並盛は東京租界の範囲外で、ゲットーだから多分何も残ってないよ」

「それでも良いんです」

「…」

「嫌なら止めても良いんですよ?」

俺の顔を覗きこんで、骸が優しく言った。

「…お前は俺の事を甘いって言うけど、俺に言わせればお前も十分甘いよ」

普段はふざけてて変態だけど、本当は優しいことを知っている。

骸だけじゃない。ここの皆は優しすぎる。

9代目が俺の友達にと、かなり前に屋敷に連れてきてくれた獄寺君。

野球留学でイタリアに来ていた山本。

俺と一緒にイタリアへと渡ったお兄さん。

政府の高官だったヒバリさんのお父さんは、開戦後暫くしてからボンゴレに尽くすという条件でヒバリさんを連れてイタリアへと渡って来た。

獄寺君は最初俺を嫌っていたけれど、今は俺の右腕だと張りきっていて、凄く慕ってくれているのがわかる。

山本は数少ない日本人の友達で、マフィアのボスである俺とも分け隔てなく接してくれるだけでなく、守護者にまでなってくれた。

お兄さんは…こんな俺に昔と変わらずに接してくれている。

俺は、お兄さんに何も償えないのに。

ヒバリさんはヒバリさんで、群れる事を嫌い、並盛の秩序を守ることを考えてる。

でも、いざという時は協力してくれる。ヒバリさんは嫌なのかもしれないけど。

骸は始めは敵だった。

マフィアを憎み、世界を憎み、この世界を壊そうとして、ボンゴレ10代目である俺を狙ってきた。

骸を倒して、その後色々あって、今は仲間になっている。

始めは守護者なんていってもまとまりなんて全然なくて、任務地で喧嘩したり、共闘する人を決める時に揉めたりと色々あった。

でも今はそんなことも滅多に無くなって、それなりの関係を築いてる…と思う。

骸とヒバリさんとか、獄寺君とヒバリさんとか、獄寺君と骸とか、心配だけど…。

「百面相してますよ」

「誰のせいだよ」

「僕のせいだと言いた気ですね」

「お前のせいだからな」

「…」

骸はわざと困ったように首をすくめてみせる。

気にかけてなんていないくせに。

「で、何してるんだよ」

無理矢理繋げられている手を骸に見せながら聞いた。

こいつ、いつの間に俺と手を繋いでたんだ?

「添い寝してあげようかと思いまして」

「いらないから。いい加減この手を放せ」

「手を繋いで寝ようかと思いまして」

そうやら、話をまともに聞く気は無いらしい。

「骸…」

「はい?」

「俺を子ども扱いするな」

「してませんよ。でも、こうやって手を握っていれば嫌な夢を見ないらしいですよ。実践済みです」

「…誰が?」

「さぁ、寝ましょう!!」

「無視かよ!!」

骸が横になるから、つられて同じように寝転がった。

「骸?」

「…」

返事がない。

ぇ、こいつ本気で寝てんの?
こんな数秒で!?
どんな神経してんだ、こいつ?
そういえば、ヒバリさんも獄寺君も寝るの早かったなぁ。
どうせなら寝とこうかな。
骸は手を放してくれそうもないし。

握られた手を少し動かすも、放してくれる気配は無い。

「はぁ…」

俺は横になったまま目を閉じた。










次に目を開けたとき、空は赤く染まっていた。

「骸、そろそろ起きろ。もう夕方なんだけど」

「良いじゃないですか。どうせ今日は暇なんですから」

「それでもいい加減に帰らないと…」

「皆が待ってるからですか?」

「…そうだ」

「行けば君はまた傷つくことになるとわかっているのにですか?」

「…そうだ」

そう、皆優しい。

だから俺は皆を嫌えない。見殺しに出来ない。

もう誰も失いたくないと思ってしまう。

護りたいと思ってしまう。

俺の全てをかけてでも。

あの日の事がなければ、今俺はここにいなかった。

マフィアなんてなりたくなかった。

今の俺を作ったのは、あの日の決意。




過去に戻れたら良いと思う。

でも、それは皆を失う事になる。

『君はいつまで逃げるつもりなの?いい加減にしなよ』

ヒバリさんの言葉を思い出す。

俺は…もう逃げない。

逃げる事は許されない。

君を守れなかったあの日から。


「…今苦しんで、日本へ行って更に苦しんで、帰ってきたら今度こそ戻れない血生臭い世界へ足を踏み入れる事になる。
 君は本当にそれで良いんですか?満足なんですか?」

骸の言葉が胸に突き刺さる。

嫌だ。

本当は嫌だ。

でも、俺にはそんなことを言う資格なんて無い。

「…決めたんだ。マフィアになるって、日本に行くって。怖いけど、決めたんだ」

「僕に…僕に一言言えばいい。そうしたら君を今直ぐここから浚ってあげます」

優しい瞳で骸は俺を見つめる。

「苦しみも、悲しみも無い世界で僕と過ごしましょう?永遠に護ってあげますから」

嫌だ。やめろ。やめてくれ。

「君がこれ以上苦しむ姿は見たくないんです。僕は君のことが…」

「俺はお前のこと、大切な仲間だと思ってるよ」

「……」

「お前は大切な仲間だ」

「君は…ズルイ」

「…」

「僕の気持ちを知っているくせに、そうやって知らないふりをする」

「ごめん」

だって、怖いんだ。

誰かを好きになることが怖いんだ。

もしも記憶の中で微笑むあの子のようになってしまったらと思ったら…もう、駄目なんだ。

「早く帰らないと獄寺君たちが心配するから…帰ろう?」

「えぇ」

ゆっくりと帰る。

今、俺がいるべき世界へと。

休息は終わりだ。







夢を見た。

アッシュフォード学園の制服を着た俺が、同じ制服を着た綺麗な男の人と話をしている夢を。

周りには骸も、ヒバリさんも、山本も、獄寺君も、お兄さんもいて、俺は笑っていたんだ。

起きた時何だか嬉しくて、俺はきっと日本でも良い事があるって思えたんだ。


俺がアッシュフォード学園に転入するまで後1ヶ月。